PK

監督 「吉川、いけるか?」


吉川 「え? なにがです?」


監督 「なにがです、じゃないよ。PK。決めなきゃいけない場面」


吉川 「PKですか? いけますけど。なんで監督、俺がPKできるって知ってるんですか?」


監督 「できるだろ、お前のボールコントロールなら」


吉川 「はぁ、コントロールしますけど。隠してたのにわかったんですか?」


監督 「わかるよ。お前の動きを見てれば。監督をなんだと思ってるんだ」


吉川 「御見逸れしました。で、俺はPKでなにをすればいいんですか? 人を傷つけることはしたくないんですけど」


監督 「PKなんだからボールをゴールに入れればいいんだよ」


吉川 「え? いいんですか? あんまり直接的なやつだと疑われません?」


監督 「PKだぞ? 直接狙うしかないだろ」


吉川 「わかりました。曲げたりしてもいいんですか?」


監督 「好きなように蹴れ」


吉川 「あ、蹴らなきゃいけないんですか? PKだけで入れるのは?」


監督 「どういうことだ? 蹴るのがサッカーだろ」


吉川 「でも俺、蹴るのが苦手で。PKだけでいいならPKだけでいきたいんですけど」


監督 「PKだけってなんだよ。どういう状況だよ」


吉川 「だから、こう、ボールを操る感じで」


監督 「え? なに? 今のどうやった? ボール浮いてる」


吉川 「PKです」


監督 「PKってなに!?」


吉川 「psychokinesisサイコキネシスですよ。知ってたんじゃ?」


監督 「知らない。なにそれ。なんでそんなのできるの?」


吉川 「逆になんでPKのこと俺に言ってきたんですか? 怖い」


監督 「ペナルティキックだよ。サッカーの」


吉川 「あー、そういうのありましたね。すみません、あんまりサッカーのこと知らずに」


監督 「嘘だろ? チームに入れた俺の立場は。あのボールコントロールは何だよ」


吉川 「PKです」


監督 「サイコキネシスでやってるの? あれ全部?」


吉川 「普通そうじゃないですか? だって足だけでやるなんて不可能でしょ。みんな多少はPK使ってるんじゃなくて?」


監督 「普通は使わないんだよ。足の技術を磨くんだよ」


吉川 「え? みんなPK使わず? 本気で足だけで何時間もスポーツやってるんですか? なんで? 狂気じゃないですか。足以外も使えばいいのに」


監督 「そういうスポーツなんだよ。サッカーにそんな反応する選手見たことないよ」


吉川 「だって冷静に考えてくださいよ。足だけですよ? おかしくないですか? 人間には手もあるのに。むしろ手の方がよっぽど精密な動きができるのに。バカが考えたスポーツなんですか?」


監督 「言い過ぎだよ! サッカーを愛するものはそこに疑問を持ったことないんだよ」


吉川 「いやぁ、持ったほうがいいですよ。言っちゃ悪いけど、そもそも足ってそうやって使うものじゃないですからね?」


監督 「そうだけどな。スポーツってのは大概どこかに制限をしてそこに面白みがあるんだろ? 根本を揺るがすなよ」


吉川 「まさかみんなPKを使ってないとは思いませんでした」


監督 「お前のサッカーに対する思いはともかく、ここはPKで決めてくれ。なんかちょんって蹴った後にPKで操ってとにかくゴールをしてくれればいいから」


吉川 「わかりました」


ピーッ!


監督 「おい! 吉川! なんで阻まれたんだ? お前、サイコキネシス使えるんじゃないのか?」


吉川 「今思考が流れ込んできたんですけど、向こうのキーパーは未来予知ができるタイプみたいで」


監督 「繰り広げるなよ! PK対決ってそういうものじゃないから」



暗転

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