弔事
吉川 「それではご友人の藤村様より弔事を頂きたいと思います」
藤村 「皆様、本日は足元の悪い中、故人のワンマン葬式にご参列いただき、誠にありがとうございます。私と故人とは、それはもうハチャメチャ親友でした。そこにいる吉川なんかよりずっと親友でした」
吉川 「言うなよ。そういうこと。別にいいだろ」
藤村 「よく故人とは二人で、そこにいる吉川の悪口を言ったりしてました」
吉川 「そうだったのかよ。知りたくなかったな」
藤村 「あと、吉川と二人で故人の悪口も言ってました。主に7:3で吉川の方が言ってました」
吉川 「そんなことねーよ! そうだったとしても言わなくていいだろ!」
藤村 「『あいつマジで死ねばいいのに』って言ってました。吉川が」
吉川 「違います。言ってません」
藤村 「まさかそれが本当になるだなんて。吉川、すまん。俺のことは許してくれ」
吉川 「俺が殺したみたいに言うなよ。病気だろ!」
藤村 「えー、故人とはいつもくだらない話で笑い合ったり、そしてまたくだらない話で殴り合ったり、さらに下りのエスカレーターを昇ったりしてました」
吉川 「本当にくだらないことしてるな」
藤村 「病気で気が弱くなった彼はこんな事を言ってました。『俺が死んだら、葬式はうんと賑やかで笑いの絶えないやつにしてくれ』と」
吉川 「だからお前はこんな滅茶苦茶な弔事を……」
藤村 「あと『香典は1円でも多く搾り取ってくれ』と言ってました」
吉川 「言わなくていいんだよ、たとえ言ってたとしても」
藤村 「それを聞いた時、私は痩せこけた彼の横顔を見ながらこう思いました。『俺は何割くらい貰えるんだろうな?』って」
吉川 「もらえないよ! 家族のものだよ。もっと他に考えることあっただろ」
藤村 「ある時、故人がこんなことを言ってました。……まぁ、犯罪になるのでここでは言いませんが」
吉川 「だったら匂わすなよ! この期に及んで印象悪くしてどうするんだよ」
藤村 「今でもあいつが死んだことが信じられませんし、今日の占いでかに座が12位だったのも信じられません」
吉川 「一緒に並べるな? それは全然強度の違う信じられなさだから」
藤村 「おい! 嘘だろ? なんで黙ってるんだよ! 答えろよー!」
吉川 「……」
藤村 「チッ。無視かよ」
吉川 「死んでるんだよ! 返事を求めて問いかけるなよ」
藤村 「でも今日ここに集まってる人達を見て、あいつらしいなと思いました」
吉川 「わかった。もうそれ以上言うな」
藤村 「ブスばっかりで」
吉川 「ほらー! もう! そんなことないよ! 余計なこと言うなよ」
藤村 「ってさっき吉川も前室で言ってました」
吉川 「言ってません。私は言ってません。こいつが言ってました」
藤村 「棺桶の中のあいつは、まるでさっき起きたみたいな様子で」
吉川 「眠ってるよう、だろ? さっき起きた感じになってるの怖いよ。どういう状態だよ」
藤村 「生前あいつが好きだった200kgのバーベルも一緒に入れてやろうと思ったのですが」
吉川 「無理だよ。ギューってなっちゃうよ。バーベルの方が主役みたいになる。棺桶の強度もそんなにないだろ」
藤村 「あいつが生前大好きだったのに病気になってから食べれなくなった鶏肉を下味をつけて入れました」
吉川 「美味しく調理するつもり? 火葬で絶妙な火加減はできないよ?」
藤村 「最後になりますが、故人を愛してくれた方、そして実はあんまり好きじゃなかった感じの吉川」
吉川 「好きだったよ! 勝手に決めるなよ」
藤村 「え? 好きだったの? まじで? ヒューヒュー」
吉川 「ヒューヒューじゃないんだよ。友人としてだよ」
藤村 「彼のことを覚えていてくれることが何よりの供養になると思います。なので、あいつの好きだったタイトスカート黒タイツハイヒールの女性を見るたびに思い出してもらえればと思います」
吉川 「嫌な刷り込みするなよ」
藤村 「それでは引き続き、故人の大切な遺品の当たるビンゴコーナーに移りたいと思います」
吉川 「頼むからもう帰ってくれ」
暗転
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