主張

吉川 「最近、エコロジー関係の活動家が自分の手を貼り付けて抗議活動することがあるじゃない?」


藤村 「あのはた迷惑なやつな。ぶっ殺したい」


吉川 「あぁ、うん。そっか」


藤村 「なに? 何か言いかけてなかった?」


吉川 「いや、別に……」


藤村 「すごい勿体つけるな。いいよ、言えよ」


吉川 「なんていうか、ああいう主張するのはなんか面白そうだなと思って」


藤村 「ごめん、まさか貼り付けたい派だったとは思わなくて。ちょっと過激な発言をしてしまった」


吉川 「貼り付けにこだわってるわけじゃないけどね。大体ああいうのやってる人って二人とかそれ以上じゃない? 他人がどう思うかはともかく、二人の間ではデカいことやってやろうという気持ちが盛り上がるんじゃないかと思うんだよ」


藤村 「それはつまり、構って欲しいだけなんじゃないの?」


吉川 「よくそんな身もふたもないこと言えるな? この世にある大概の話は『それはつまり、構って欲しいだけなんじゃないの?』で終了を迎えるんだよ。それだけは雑談で言ってはいけない言葉だよ」


藤村 「それだけは言ってはいけない言葉を言ってしまい申し訳ない。別に他意はなかったんだけど、すごい面倒くさそうな話だなと思って」


吉川 「それを他意って言うんだよ。もうちょっと純粋に狭い世界の中で何かを成し遂げようとしてしまう若さ、みたいのに憧れるんだよ。やってみればちょっと考え方変わるかもしれない。一緒にやらないか?」


藤村 「そんなストレートに悪事を強要されたの初めてだからドキドキするな。そもそもなんで手を貼り付けたいの?」


吉川 「やっぱり耳目を集めるじゃないか。そこまでして言いたいのか、と注目されるのは羨ましい」


藤村 「それはつまり、構って欲しいだけなんじゃないの?」


吉川 「お前! 今のはわざとだろ!」


藤村 「今のはわざとだった。ゴメン」


吉川 「世の中の人間ってのは多かれ少なかれ構って欲しいんだよ。それはもうベースの部分だから。そこを批判したら話が進まないんだよ。構って欲しい上で色々な思想や欲求があるんだろ? それを指摘するのは問題解決として『だったら生きなきゃいいじゃないですか』と言ってるのと一緒だよ」


藤村 「意外ときっちり反論してくるなぁ。わかった。どう構って欲しいかが問題なんだな。そこにお前なりの個性が現れてくる、と。で、なにを訴えたいの?」


吉川 「振り方えげつなくない? その一言でお前の個性をジャッジするぞみたいな怖さ醸し出してるじゃん。つまらないこと言ったら、お前はそこまでの人間だと見下されるみたいで、もうなにも訴えられない。雑談に対してそんな緊張感を持ち込まないでくれる?」


藤村 「そんな試すようなことをしたつもりはないんだけど。わかった。何を言ってもいいよ。気軽に。どんなクソみたいな内容でも受け止めるから」


吉川 「前提として嫌悪感がでてる。クソみたいな話と思って待ち構えてるの? そんなキャッチャーに気持ちよく球を投げられないよ」


藤村 「違う違う。たとえば、だよ。たとえクソみたいな内容でも受け止めるというこの度量。お前の球は最高だと思ってるよ? でもたとえ失投したとしても俺とお前の友情は何も変わらない。いいじゃないか、貼り付けて訴えかけるの。そういえば2000年くらい前にもいたな。イスラエルのあたりにいた人で」


吉川 「そんなビッグネームと比較しないでよ。色々と配慮して名前を出してない部分には感謝するけど。その人はそもそも自分の意志で貼り付けたわけじゃないからね。俺たちはもっと愚かしいけど本人にとっては真面目な青春みたいなものを味わいたいんだ」


藤村 「よし、やろう! 訴えよう!」


吉川 「いや、まぁ、そんなに訴えること自体は俺の中では重要じゃないんだけど」


藤村 「じゃ、俺が訴えていいか? 手を貼り付けて。高らかに」


吉川 「任せた!」


藤村 「それはつまり、構って欲しいだけなんじゃないの!」


吉川 「意地悪いね」



暗転



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