痛いの

藤村 「ウグッ……」


吉川 「どうした?」


藤村 「また飛んできやがった」


吉川 「なにか当たったの? なに?」


藤村 「痛いのだ」


吉川 「痛いの? どこが痛いの?」


藤村 「いや、俺じゃなくて。飛んできたのが痛いの」


吉川 「ん? 痛いのが飛んできたの?」


藤村 「そうだ。『痛いの痛いの飛んでけー』と飛ばした流れ痛いのに当たった」


吉川 「あれってちゃんと飛んでるものなの?」


藤村 「当たり前だろ、飛ばないとしたらなんのためにやってるんだ」


吉川 「いや、気持ち的なものかと思ってた」


藤村 「そこら中飛んでるんだよ。特に俺は引き寄せるタイプみたいだ」


吉川 「そういうのあるんだ」


藤村 「蚊にも刺されやすいし」


吉川 「ジャンル一緒なの? それは」


藤村 「夏場なんかたまにハエもたかってる」


吉川 「風呂に入りなよ、それは」


藤村 「あとスマホ見てるとしょっちゅう野良wi-fiを捕まえそうになる」


吉川 「それはスマホの設定でしょ」


藤村 「wi-fiを検知したかな、と思うと電波が弱すぎてなんにも読み込めないやつ。扇が一番ちっちゃいの。そんなwi-fiなら最初から捕まえるなよってやつをこまめに捕まえてる」


吉川 「もう体質は全然関係ない話になってるな」


藤村 「そんなんだから流れ痛いのはしょっちゅうよ」


吉川 「そんなに食らってたら死んじゃわない?」


藤村 「一つ一つのダメージは低いんだよ。ただ頻繁に来るから精神的にも辛いんだよな」


吉川 「確かに生死をさまようような大怪我を『痛いの痛いの飛んでけ』で飛ばしてるやつ見たことないもんな。せいぜい擦り傷切り傷火傷くらいか」


藤村 「これがね、一番多いのが意外かもしれないけど肩こりなんだよね」


吉川 「あー、あれを飛ばすのか。確かに慢性的なものだと呪術的ななにかに頼りたくなるかもなぁ。聞いてみないとわからないもんだな」


藤村 「もう何人もの痛みを双肩に担ってるから」


吉川 「そんな双肩に担い方やだな」


藤村 「肩は慣れたけどね。あと偏頭痛も多い。最悪なのは出先で急に腹痛が飛んでくることね」


吉川 「出先で!? 絶対に嫌じゃん」


藤村 「ただ痛いだけだから別にトイレは普通。むしろどれだけトイレに篭っても解消はされない」


吉川 「自分の身体の不調じゃないもんな」


藤村 「そうそう。だからいつもの飛んできた腹痛かと思って甘く見てたら自分の下痢だったということもよくある。でも普通の人も漏らすしね」


吉川 「そんなに漏らさないよ? よくあるエピソードみたいに語ってるけど」


藤村 「こっちは漏らし慣れてるから。むしろ『飛んでけー』なんて飛ばしたりしてね」


吉川 「飛ばすなよ。絵面最悪だな。こっそり処理してよ。しかし、子供が転んだりしてやってるイメージがあったけど、意外と大人も飛ばしてるものなんだな」


藤村 「いや、そうは言っても膝の擦り傷とかは多いよ。ただ外傷に比べて体の内部の痛みの方がじんわり残るから」


吉川 「痛いのに当たったことないから想像つかないや」


藤村 「ほとんどの人はそうじゃない? うちは当たりやすい家系みたいだから。逆に言うと当たらない人の代わりに俺たちが受け持ってるようなものだもん」


吉川 「タンク系のスキル持ちみたいだな。体質じゃなくて家系なの? ますます呪いみたい」


藤村 「どうも先祖が全部請け負うみたいなデカいこと言ったらしくて」


吉川 「迷惑な先祖だなぁ。名前とかわかってるの?」


藤村 「山中鹿介」



暗転

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