止まって

藤村 「俺なんかも全盛期は止まって見えたからね」


吉川 「ボールが止まって見えたんですか? 本当にそんなことあるんですね」


藤村 「まぁ、そうだね。色々止まってたよ。スタジアムも止まって見えた」


吉川 「スタジアムは止まってますよね。ずっと」


藤村 「当時のスタジアムは出来たてでまだプルプルしてたから」


吉川 「そんなフルーチェみたいな材質でできてました? スタジアム」


藤村 「大体止まって見えたよ。あと現地は蚊が多いんだけどさ」


吉川 「蚊も止まって見えたんですか?」


藤村 「いや、蚊にはメチャクチャ刺された。全然止まってくれない。あいつら日本のとは一味違う。世界レベルを痛感したよ」


吉川 「蚊で? もっと世界を感じる場面多そうだけど」


藤村 「こういうは結局肌で感じるものだから」


吉川 「刺されたらね。痒いしね」


藤村 「あと車」


吉川 「それはスタジアムの外でも? 止まって見えたんですか?」


藤村 「全然止まってくれない。道路は一生渡れない。まじであいつら歩行者を優先するという概念がない。世界の壁を感じた」


吉川 「あんまりどうでもいいところでばっかり世界感じてますね」


藤村 「ただ愛知出身のやつは普通に渡ってたから、あいつら世界で通用する」


吉川 「交通の治安の悪さで? それは不名誉でしかないですね。あと止まってないエピソードは言わなくていいです。それは普通だから」


藤村 「そういう止まらないやつもあるけど、止まってるのも多かった。ホテルのシャワーあるじゃん? あれなんか完全に止まってた」


吉川 「それは能力とか集中力とかの話じゃないですよね? ただ設備が不良なだけで」


藤村 「ラインズマンなんてほぼ止まって見えたし」


吉川 「あんまりチョロチョロ動くラインズマンいませんよ。試合妨害ですよ」


藤村 「あと俺のインタビューを聞いた観客も止まって見えたね」


吉川 「それは引いてたんじゃないですか? インタビューに」


藤村 「多少は過激な言い方をしたけど、それだけ悔しかったから。やっぱりチームとして一つになりきってなかった部分はあると思う。チームでやってたグループラインも俺の面白ジョークで止まってたし」


吉川 「はい。想像できます」


藤村 「あと勝って収入も増えると思い込んでたからカードの支払いが追いつかなくて止まってたな」


吉川 「それは完全に自業自得ですね」


藤村 「とにかく色々と止まって見えたよ」


吉川 「別にいろいろ止まらなくていいんですよ。ボールだけで」


藤村 「ボールだけは止まって見えなかったな。むしろ早すぎてどこにあるのか全然見えなかった」


吉川 「なるほど。だから負けたんですね」


藤村 「あれ以来、俺の時も止まってるんだ」


吉川 「言い方だけ格好いいけど、お前が戦犯だからな?」



暗転

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