罰ゲーム

吉川 「じゃあ負けた藤村には罰ゲームで虫を食べてもらいます!」


藤村 「ちょっと待ってよ」


吉川 「ダメ、待てない。罰ゲームだから」


藤村 「そうじゃなくてさ。虫は食べるよ。でも罰ゲームってのはやめようよ」


吉川 「え?」


藤村 「世の中には虫を常食にしている人もいるし、未来のために昆虫食を研究している人だっているんだよ? その人達の前で『うえ~。罰ゲームだ』って言える? 失礼すぎない?」


吉川 「あ、はい。それは確かにそうかも」


藤村 「他人には敬意を持って生きていこうよ。罰ゲームって言うんだったら俺はやらない」


吉川 「俺が間違ってたな」


藤村 「わかってくれたか。じゃ、間違ってたということで罰ゲームとして背中をズタズタに引き裂いてもらおうかな」


吉川 「待ってくれ。言ってることがおかしい。罰ゲームはいけないって話じゃなかった?」


藤村 「そんなことは言ってないよ。罰ゲームは別にいい。ただ昆虫食みたいなものを罰ゲーム扱いするのは敬意に欠けると言ってるんだ」


吉川 「だったら俺のもそうじゃん」


藤村 「背中をズタズタにする文化なんてあるか? 聞いたことない」


吉川 「だってそれはストレートな拷問じゃん」


藤村 「そうだよ? だからいいじゃん」


吉川 「全然良くないでしょ。拷問をしちゃダメでしょ。罰ゲーム感覚で。罰ゲームっていうのはもっとポップな、なんか笑う余地のあることじゃないと成立しなくない?」


藤村 「指を……引きちぎってみるというのは? 全部」


吉川 「全然ポップさがない。引き裂くとか引きちぎるとか、引くっていう副詞が含まれてる時点で凄惨なんだよ。ダメだよ、肉体にダメージを与える系は」


藤村 「じゃあ、そうだな。愛するものが苦しみながら死んでいくのを手も出せずに見続けるってので」


吉川 「負って良い精神の傷じゃないよ、それは。あとさっきから単純に法に触れる。罰ゲームは合法の範囲内でやってくれよ。俺の出した罰ゲームのほうがよっぽどマシだったじゃない?」


藤村 「でも失礼だろ? そういう文化を笑い者にするのはさ」


吉川 「愛するものを苦しませながら殺そうとしてた人が礼儀を解くの?」


藤村 「それとこれとはまた別だもん」


吉川 「別だよ。別過ぎる次元だよ。別すぎて普通の人はその思考を横断できなんだよ。なんで失礼を気にした人が躊躇なく命取れるんだよ」


藤村 「死ねば帳消しになるかなと思って」


吉川 「発想がどん詰まりまで行ってるよ。だったら殺しちゃえばってサイコパスだよ。もっと可愛い罰ゲームでいいだろ。なんか恥ずかしいやつとか」


藤村 「あー、そういうやつ」


吉川 「なんか秘密を打ち明けるとかさ」


藤村 「俺はそうだなぁ、内臓見られるのとか恥ずかしいんだよね。あんまり綺麗じゃないだろうし」


吉川 「内臓を直で見られるのは恥ずかしいとかいう感情の前に色々もっと思えよ。恥ずかしくなければ見せて良いってものでもないでしょうが」


藤村 「そっか。外科医とか仕事で見るんだもんな。恥ずかしがってちゃ失礼に当たるよな。これは俺が間違ってた」


吉川 「間違い方も間違ってるんだよ!」



暗転

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