ホトトギス

藤村 「織田信長と豊臣秀吉と徳川家康のホトトギスの句あるじゃない?」


吉川 「あるね。泣くまで待とうとかいうやつね」


藤村 「あいつら、なんであんなにホトトギス鳴かせたがったんだろうな」


吉川 「いや、別にホトトギスを鳴かせたかったわけじゃないだろ」


藤村 「戦争をしてさ、統治もしなきゃいけないし、やることいっぱいなのに気持ちはホトトギスの方に行っちゃってるんだよ? 部下も『マジかよ。またホトトギス鳴かそうとしてるの?』って呆れると思うんだよ」


吉川 「実話じゃないよ? そもそも本人が読んだ句じゃないからね」


藤村 「あー、そうか。薄々は感づいてたわ。やっぱゴーストライターか」


吉川 「全然感づけてない。委託する必要あるか? 天下人に近い人がホトトギスの句に対して」


藤村 「メチャクチャ句を読むの下手だったとしたら? ノブナガもヒデヨシもイエヤスも四文字じゃん? なんか句にするには中途半端な文字数だしさ」


吉川 「あのくらいのレベルになったら自分の名前を入れて読まないだろ。よしんばゴーストライターを使ってたとしてもあのホトトギスの句は違う。本人じゃなくてもし本人が読んだとしたらという架空の話だから」


藤村 「じゃ、別にホトトギスを鳴かせたがってなかったってこと?」


吉川 「そんな暇ないだろ。周りは敵ばかりで誰が信じられるかわからない状況で『ホトトギスは鳴くかな?』なんて考えるか?」


藤村 「その割には執着がすごくない? もしかしたらホトトギスって何かのメタファーなんじゃないか?」


吉川 「そのとおりだよ。天下のメタファーだよ」


藤村 「いや、そんな安易なものじゃなくて」


吉川 「いや、天下だよ。この句を見た人全員わかってるよ。お前以外は」


藤村 「ひょっとしてパンチラのメタファーなんじゃない?」


吉川 「ひょっとしない。それだけは違う。意味もわからない」


藤村 「でもメタファーってほぼ性欲に関する時にしか使わない言葉だから」


吉川 「使うよ! フロイトの一番悪い解釈の仕方を真に受け過ぎだよ」


藤村 「パンチラが見えるまで待とうっていう句だとしたら共感はできる。ホトトギスなんていう全然知らない鳥よりもずっと」


吉川 「戦国時代! パンチラにそんなに価値はないだろ。パンもないしチラもないんだよ。羞恥心だって今とは違う」


藤村 「おいおい、メタファーなんだからそんなに厳密に照らし合わせて間違いを指摘するなんて野暮だぞ?」


吉川 「なんで余裕感出しちゃってるんだよ。パンチラではないもの。それだけは絶対に違う」


藤村 「でも読んだ人物の人となりを示す句だとしたら、パンチラでもなんの遜色もないじゃないか」


吉川 「ないか? ただ性欲が強いおじさんになってない?」


藤村 「問題は結果ではなく、それに対するアプローチの方法って話だろ? 天下取りもパンチラも一緒だよ」


吉川 「一緒ではないけどな。お前がそれで納得するならもういいよ」


藤村 「もし俺だったら『気負いせず 鳴いたらラッキー ホトトギス』くらいの感じかな」


吉川 「天下人に肩を並べて句を読むなよ。安いんだよホトトギスが。ちなみに加藤清正が読んだホトトギスの句というのもある」


藤村 「どんなの?」


吉川 「鳴け聞こう 我が領分の ホトトギス」


藤村 「やっぱパンチラじゃん。わかるー!」


吉川 「わかるなよ!」



暗転

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