いけない

吉川 「最近ギターを始めたんだ」


藤村 「おー、お前もついに。なんか教えて欲しいことあったら何でも聞いてくれ」


吉川 「え? ギター弾けたの?」


藤村 「弾けはしない。けど俺はさYou Tubeでギターを教える動画結構見てるから」


吉川 「見てるからなんだよ。弾けないんでしょ?」


藤村 「弾いたことはないし、触ったこともないけど、You Tubeで『ギターをやるならこれだけはやっちゃダメ!』っていう動画はメチャクチャ見てる」


吉川 「見てるだけかよ」


藤村 「でもこれだけはやっちゃダメっていうことを俺はしてないから。ということはそれをしてるやつより俺の方がギター上手いってことだろ?」


吉川 「弾いてないんでしょ?」


藤村 「うん。弾いてないからやっちゃダメってことも自動的にしてない」


吉川 「上手くはなってないだろ」


藤村 「でもやっちゃダメなことをしてるやつはマイナスだから。ゼロの方が上だから」


吉川 「すごい低いところで胸張ってるな。ゼロのくせに」


藤村 「俺くらいになると率先してやっちゃダメ系の動画みてるから。もうあらゆる趣味のやっちゃダメなやつを熟知してる」


吉川 「やっちゃダメなことだけ。いや、でもなにかやれよ」


藤村 「実際にやるとやっちゃダメなことしてしまう可能性があるじゃん。だから俺は手を出さない。やっちゃダメなことを収集することこそ生き甲斐」


吉川 「すごい可哀想な生き甲斐だな」


藤村 「お前がギターでやっちゃダメなことやってないか、俺がチェックしてやろう」


吉川 「いいよ別に。知りたくない。俺は別に今のままで十分だから」


藤村 「あー、それやっちゃダメなやつだ。今のままで十分と言って他人のアドバイスを聞かないってのは何かのやっちゃダメな動画で見た」


吉川 「何かの」


藤村 「何かは忘れたけど、お前は何かのやっちゃダメなことをやってるから俺よりも下」


吉川 「マウントとるならせめて何に関するマウントかくらいは把握しておいてくれよ」


藤村 「気をつけないとな。この世の中やっちゃダメなことだらけだ。ギターを弾くなんてそれだけで結構なジャンルのやっちゃダメに抵触してる」


吉川 「別に他のジャンルのやっちゃダメになったところで、ギターをやりたいんだから別にいいよ」


藤村 「俺はそんな軟弱な考えはしない。あやゆるやっちゃダメを排除して完璧人間になるから」


吉川 「そんな全方位のやっちゃダメを気にしてるやつ、完璧人間から程遠いだろ」


藤村 「やっちゃダメなことを平気でやってるやつに言われたくないね!」


吉川 「じゃあ、やっちゃダメなことをやらずに生きるためにやっちゃダメなことってなに?」


藤村 「ん? んが? あがががが」


吉川 「急に挙動がおかしくなったな」


藤村 「プシ~~ッ」


吉川 「自家中毒になって動かなくなってしまった。哀れなやつだ」



暗転

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