ゴッドハンド

藤村 「いやぁ、凝ってますねぇ」


吉川 「やっぱりそうですか?」


藤村 「ガッチガチですよ。こんなに硬いのはさっきのお客さんぶりだな」


吉川 「あ、なんだ。割とよくある程度ですか?」


藤村 「いやいやいや、滅多にない。たまたまさっき来たお客さんもすごかっただけ。連続で来たから驚いちゃったくらい。すごい硬いですよ? だってさっきのお客さんはほぼ死体だったから」


吉川 「ほぼ死体」


藤村 「あれは死後硬直に近かったんじゃないかなー」


吉川 「それが客としてきたんですか?」


藤村 「あの心音がピッピッってなるやつあるじゃない? あれがもうピーーッってなってたから」


吉川 「ほぼ死体!」


藤村 「でも施術が終わったらピンピンして帰っていきましたよ」


吉川 「すごいじゃないですか。ピーーッから持ち直したってこと?」


藤村 「揉みがピークに達した時にはもうサンバのリズム刻んでたからね。ピッピピピッピッピッピピッピって」


吉川 「そんな風になる? それは不整脈だから逆に危ないんじゃないかな」


藤村 「お客さんもそれに近いですよ」


吉川 「ほぼ死体に? 割とまだいけると思って来たんですが」


藤村 「いやぁ、これは危なかったですね。あと5秒遅かったら即死でした」


吉川 「5秒で。ギリギリすぎて信じがたい」


藤村 「これだけ凝ってるとメンタルの方も不味いんじゃないですかね。なにか悩みとかあります?」


吉川 「いや、肩くらいですね。あとは息子が中学受験で」


藤村 「あー、受験。それは家族にもストレスかかりますからね。そうか、中学受験か。じゃちょっと見てみようかな」


吉川 「見てみるってなにをですか?」


藤村 「はい、じゃ横向きの体勢になってー」


吉川 「はい。こうですか?」


藤村 「あー、これは社会ですね。歴史ちょっと弱いでしょ」


吉川 「私の身体で? 息子の受験を見てるの?」


藤村 「こういうのはね、出るものだから全部身体に出る」


吉川 「なにが? 私じゃなくて息子の受験ですよ」


藤村 「もう全部出てるから。合否とか」


吉川 「合否まで出てるの? 私の身体に?」


藤村 「どうします? 社会の成績上げておきましょうか?」


吉川 「できるの!?」


藤村 「ツボがあるんでね。まぁ、私くらいになると可能ではありますね」


吉川 「あー、じゃあ一応上げてもらえますか?」


藤村 「はい。ちょうどここですね。この出っ張った骨から指三本」


吉川 「場所を言われても、今後誰かの息子の社会の成績を上げる機会なんてなさそうなので」


藤村 「じゃ、上げまーす」


吉川 「イヅヅヅヅ! イッダ! イダイ! ちょっと! ちょっダメ!」


藤村 「まだですよ。まだそんなに上がってないです」


吉川 「いや、ちょっと無理です。いいです。もう十分です」


藤村 「いいんですか? この状態だと合否はボーダーラインですよ?」


吉川 「痛すぎる。成績は息子に自分で上げてもらうようにします。私には無理」


藤村 「そうですか」


ギュワインギュワインギュワイン!


吉川 「うわっ! ビックリした。緊急警報か」


藤村 「あー、地震が来るみたいですね。どうします? 地震、止めます?」


吉川 「どういうこと?」


藤村 「ちょうどここのツボ。ここから指の幅くらいのところが地震を止めるツボです」


吉川 「私の身体に? 地震て地球のやつですよ?」


藤村 「止めるくらいならいけますね」


吉川 「いや、でもやっぱり痛いんですか?」


藤村 「地震ですから。社会の成績の比じゃないですね」


吉川 「無理です。耐えられません」


藤村 「人、いっぱい死にますよ?」


吉川 「えー。そんなこと言われても」


藤村 「まだ止められるのに」


吉川 「いや、でも本当に耐えられないんで」


藤村 「あー、死んでいく。人の命が。儚く消えていく」


吉川 「私の責任じゃないですよね? 地震のせいだから。災害だから」


藤村 「止められるのに……」


吉川 「なんで地球のスイッチみたいのが私の身体に付いてるの? それも納得いかないし、痛すぎるし」


藤村 「わかりました。ではこれにて施術は終わりになります。お疲れ様でした」


吉川 「あっさり引き下がるなよー。わかったよ。押してよ。地震のツボ」


藤村 「ここ!」


吉川 「ぎゃー! イダダダダダ!」


藤村 「あ、まずい! 津波が来そう。どうします?」


吉川 「もういいから! それも押して!」


藤村 「津波はここ!」


吉川 「ギィヤァアア!」


藤村 「しまった。息子の社会の成績が下がってきた!」


吉川 「押してー!」


藤村 「ここ!」


吉川 「あ、地震に比べたらまだまし! 耐えられる!」


藤村 「あとここのツボが本日の施術料金500円割引のツボになります」


吉川 「なんでもツボで管理するのやめろよ!」



暗転

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