ほっとけない

吉川 「娘さんと結婚させてください」


藤村 「キミは誠実な人のようだし、構わんよ。しかし親から見ても平凡な娘だがどんなところが気に入ったんだ?」


吉川 「なんと言いますか、ほっとけないところがあって」


藤村 「わかった。しかし私も人の親として娘の幸せを望んでる。一つだけ約束を守れるかな?」


吉川 「はい。なんでしょうか?」


藤村 「1000円貸してくれる?」


吉川 「1000円ですか? あ、はい」


藤村 「よっしゃ、いけた。え? もうちょいいけそう?」


吉川 「なんですか、もうちょいって」


藤村 「2000円はさすがに無理?」


吉川 「あの、結婚を申し込みに来たんですけ」


藤村 「それはわかってる。大丈夫。わかった上で2000無理なら1800でいける?」


吉川 「別にそのくらいならいいですよ。結婚の条件としては安すぎて逆に嫌なくらいですよ」


藤村 「まじか。いけるのか。2200円でも?」


吉川 「刻んできたな。安いんですって。逆に2200は無理ですねっていう人に娘さん嫁がせたいですか?」


藤村 「じゃ、そこにある壊れた冷蔵庫、これも一緒に持っていってくれる?」


吉川 「え? 冷蔵庫?」


藤村 「そうだ。まぁ、キミにとっては壊れた冷蔵庫にしか見えないかも知れない。だが我々の家族、そして娘にとってこの冷蔵庫はとても思い出のあるものなんだ」


吉川 「そうだったんですか」


藤村 「もしこの冷蔵庫と離れると思うと娘も悲しむだろう」


吉川 「わかりました。引き取ります。できれば修理して使えるようにしたいです」


藤村 「修理するかしないかは別にどうでもいいが、とりあえず持っていってくれさえすればいい」


吉川 「はい」


藤村 「っしゃ! 片付いたー。それとそこにある壊れた洗濯機もあるな」


吉川 「これも思い出なんですか?」


藤村 「そうだ。大切な誰かの思い出が詰まってる。中古で買ったから」


吉川 「ご家族のではなく?」


藤村 「やっぱダメだね。中古は。買ってすぐ壊れちゃったもん」


吉川 「え? じゃあなんでこの洗濯機も?」


藤村 「粗大ごみはお金かかるし」


吉川 「いや、お金ならボク出しますよ。別に持っていかなくてもいいですよね?」


藤村 「そういうのもアリなの?」


吉川 「アリってどういうことですか? お義父さんひょっとしてお金に困ってるんですか?」


藤村 「困ってはないんだけど、お金はめちゃくちゃ欲しいんだよ」


吉川 「すごい欲望に従順。あんまりそこまできっぱり言える人いないですよ」


藤村 「よしよし。次は大変オトクなプランなのだけど、まずキミに会員になってもらう。会費はいただくが大丈夫。キミが新しい会員を勧誘することができれば、その会員の会費の10%がキミに支払われる。さらにその子会員が孫会員を勧誘すれば」


吉川 「それはダメなやつじゃないですか?」


藤村 「ダメか? さすがのキミも無理か?」


吉川 「いえ、ボクがというより法に触れるので」


藤村 「うそー? 安全で確実だって言われたよ?」


吉川 「騙されてます。だってネズミ講ですよ。お義父さんも止めたほうがいいですよ?」


藤村 「でももうワシは引き下がれない所まで来てるから」


吉川 「下がりましょうよ。これをきっかけに」


藤村 「引き下がるにしてもさっきの2200円は有効? あれももうナシってこと?」


吉川 「いいですよ、それは。なんならもうちょっと出しますよ」


藤村 「よっしゃ。続いてこちらの高濃度水素充填の湯。これを飲めば朝はスッキリ目が覚めるし夜もグッタリ眠れる」


吉川 「グッタリ? 水素水ですか?」


藤村 「いや、そういう怪しいのとは全く違う。これはお湯だから」


吉川 「心持ち温くなっただけじゃないですか。なんでこんなの大量に買ってるんですか」


藤村 「モノはいいって言われたから」


吉川 「メチャクチャ怪しいじゃないですか。ダメですよ、そういうのに手を出すの。よくない」


藤村 「でもこの間アダルトサイトから高額の請求が来ちゃって。見に覚えがないわけでもないからさ」


吉川 「ほっとけなさ上回ってるな!」



暗転

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