メニュー

藤村 「いらっしゃいませ。こちらがメニューになります」


吉川 「うわー、なんかどれも名前が美味しそう。すごい期待感煽るやつばっかりだな。じゃあ『こんなの見たことない究極の絶品唐揚げ』を一つ」


藤村 「かしこまりました。『こんなの見たことない究極の絶品唐揚げ』でございますね。今から揚げさせてもらいますので少々お時間を頂きますがよろしいでしょうか?」


吉川 「いいです、いいです。揚げたてがいいですから」


藤村 「かしこまりました。では『こんなの見たことない究極の絶品唐揚げ』をお一つ。あ、申し訳ございません。お客様。『こんなの見たことない究極の絶品唐揚げ』の方ですが材料の方がなくなってしまったようで」


吉川 「あー、そうなんですか。あれ? ここって開店時間は?」


藤村 「はい、さっきです」


吉川 「もうなくなってるの?」


藤村 「ごめんなさい。『こんなの見たことない究極の絶品唐揚げ』は創業以来材料が切れていて」


吉川 「創業以来? じゃ、仕入れればいいじゃん。なにやってんの? え? こんなの見たことないってそういう意味で?」


藤村 「そうですね。まだ私も見たことないです」


吉川 「そっちも? 客側の感想じゃないの? お店としてはちゃんと見ておいて欲しいよ。あと提供できないメニュー書かないで欲しい」


藤村 「いつかお目にかかれる日が来るかも知れません。その時までご期待ください」


吉川 「ご期待を売りにするなよ。じゃ『食通が選んだ逸品炙りハンバーグ』」


藤村 「かしこまりました。『食通が選んだ逸品炙りハンバーグ』お一つ。こちら今から炙らさせていただきますので、少々お時間を頂きますがよろしいでしょうか?」


吉川 「炙らさす? はい。それでいいです」


藤村 「大変失礼ですが、お客様はもちろん食通でいらっしゃいますよね?」


吉川 「え? いや、別に食通というわけじゃないですけど。あんまり好き嫌いないし」


藤村 「左様でございますか。申し訳ございません、こちらのメニュー、食通でない方は選べないことになっております」


吉川 「だから客の感想におもねりすぎだろ。食通が選んだものを店側が出すんじゃなくて? 客の舌をジャッジするシステムなの?」


藤村 「食通でしたらお出しできたんですが」


吉川 「それ、相手が食通かどうかは何を基準に判断するの?」


藤村 「当店オリジナルの食通試験がございまして。45分の制限時間内に20問で97点以上が食通ということになっております」


吉川 「面倒くせ! こっちはただ食べに来た客だよ?」


藤村 「食通でない方にお出ししてしまったら、『食通じゃない味もわからないバカも選んだ逸品炙りハンバーグ』になってしまいます」


吉川 「食通じゃないのはいいとして、味もわからないバカってなんだよ! 無礼すぎるだろ。この『感動を呼ぶ味のワンダーランド照り焼き』は?」


藤村 「かしこまりました。『感動を呼ぶ味のワンダーランド照り焼き』をお一つで。今から照りますので少々お時間を頂きますがよろしいでしょうか?」


吉川 「照るってなんだよ。毎回このくだりあるけど、ちゃんとでてくるなら待つよ」


藤村 「念のために確認させていただきますが、味のパスポートはお持ちでしょうか?」


吉川 「なに? その初めて聞く名前。アプリであるの、そういうの?」


藤村 「いえ、味のワンダーランドに入国することになりますので当然パスポートが必要となりまして」


吉川 「そんなちゃんとしたランドなの? 国境がある? 取り寄せられないの?」


藤村 「密輸ということでしょうか?」


吉川 「人聞きが悪いな」


藤村 「しかし味のワンダーキングは恐ろしいほど残虐な独裁者で発覚した場合はメタメタな拷問にあいますが構いませんでしょうか?」


吉川 「構うよ。一切関わりたくないよ、味のワンダーランドには。もう違うのにする。『空前絶後の美味体験ケルムッチャパ』ってのは出るの? 空前絶後って出てきそうにない名前がついてるけど」


藤村 「『空前絶後の美味体験ケルムッチャパ』でございますね。かしこまりました」


吉川 「これは今から仕込むんじゃないのかよ。すぐ出るの? 本当に?」


藤村 「はい。おまたせしました。『空前絶後の美味体験ケルムッチャパ』でございます」


吉川 「うわー! 空前絶後なやつ出てきたな。そもそもケルムッチャパってなんだよ!?」



暗転

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