表出ろ

吉川 「やんのか。コノヤロー!」


藤村 「ぁんだ? 誰に向かって口効いてんだ?」


吉川 「表出ろ、コノヤロー!」


藤村 「じゃ、そこの上着取れよ、コノヤロー!」


吉川 「いや、暖かくして出ようとするなよ。この勢いのまま出ろよ」


藤村 「もう遅いし冷えてきてんだぞ、コノヤロー!」


吉川 「そうだけど、帰り支度しろって言ってるんじゃないんだよ」


藤村 「急に外に出て身体が冷えて何かあったらどうするんだ、コノヤロー!」


吉川 「明日の健康のこと考えてるの? 喧嘩をするのに。喧嘩の時点である程度の健康は諦めろよ」


藤村 「んだとコノヤロー? だったらおかわり頼んどくぞ?」


吉川 「おかわり? 戻ってきてまた飲み直そうとしてるの? 今の感情のまま?」


藤村 「揚げ物はちょっと出てくるのに時間かかるから今のうちに頼んどくぞ、コノヤロー」


吉川 「時間つぶしに外に出るわけじゃないんだよ。ちょうどいい感じの時間配分をするな」


藤村 「ちょっとトイレ行ってくるから先表出てろ、コノヤロー!」


吉川 「なんで用事を挟むの? 今のエモーションのまま表に出て即爆発するものだろ?」


藤村 「この店地下だぞ? 表ってのは一階のこと?」


吉川 「そうだよ! 踊り場じゃ狭いし迷惑になるだろうが」


藤村 「それは階段登るってことだぞ、コノヤロー」


吉川 「そのカロリー消費を嫌がるなよ。喧嘩するんだろ? 階段くらい意識せずに昇れよ」


藤村 「エレベーターないよな、コノヤロー?」


吉川 「ないよ! 自力で昇れよ!」


藤村 「ちょっと踊り場出ろコノヤロー!」


吉川 「さり気なく楽なところに出ようとするなよ! ちゃんと外まで出ろよ」


藤村 「なんだったらもう店内でなんとかしろ、コノヤロー!」


吉川 「お店に迷惑かかるだろうが。それがダメだから表に出ろって言ってるんだろ」


藤村 「ちょっとお店の人に迷惑かどうか聞いてみろ、コノヤロー!」


吉川 「なんでだよ。聞かなくてもわかるだろ、店の中で喧嘩して迷惑じゃないことなんてないんだよ!」


藤村 「ちょっと静かに喧嘩したとしたらどうなんだコノヤロー!」


吉川 「どうしても表に出る面倒臭さが勝ってない? もう喧嘩という本質を忘れてるじゃん」


藤村 「指相撲で勝負するか、コノヤロー!」


吉川 「威勢の割にスケールが小さいんだよ。それでこの高まった感情が解消されると思ってるの?」


藤村 「声もちょっと抑えて、とっとと指相撲しやがれ、コノヤロー!」


吉川 「本気でそれで決めるつもりなのか? 表に出ればいいだけだろ!」


藤村 「ゴチャゴチャ言わずに土俵に出ろ、コノヤロー!」



暗転

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