ぺてんし

ウェディング

藤村　「今回ウェディングプランナーを勤めさせていただきます、藤村です」

吉川　「どうも。あの、なるべく簡素にやりたいんですけど」

藤村　「はい、承っております。当ウェディングではアリ一匹通さぬほど簡素なプランもご用意しております」

吉川　「アリ一匹ってそういう使い方するっけ？　招待客はいてくれて構わないんですが」

藤村　「左様でございますか。ではこちらのケチ客用のシンプルプランはいかがでしょうか？」

吉川　「ケチ客用？　別にそんな貧乏なわけじゃないですけど！？」

藤村　「あ、申し訳ございません。ここは読まなくていい部分でございました」

吉川　「読まなくていいって、内輪ではそう呼んでるわけか。感じ悪いな」

藤村　「ではこちらのセレブ客用のシンプルプラン・プラスはいかがでしょうか？　あちゃー！　これも読まなくていい部分読んじゃった！　しまったー。ウッカリしたなぁ」

吉川　「ウソっぽいなぁ。わざとらしすぎる」

藤村　「お客様がセレブっぽかったのでつい読んでしまいました。痛恨の極み」

吉川　「まぁ、いいですよ。シンプルなので」

藤村　「ではご入場はドンブラというのはいかがでしょうか？」

吉川　「ドンブラ？　ゴンドラじゃなくて？」

藤村　「ドンブラです。新郎様が大きな桃に入って流れてきてお父様とお母様が拾い上げるという」

吉川　「そんなシステムあるの？　桃太郎じゃん。結婚式だよ？」

藤村　「ですから、桃から生まれた新郎様が鬼嫁の元に向かうというストーリーで」

吉川　「鬼嫁じゃないよ！　結婚するのに新婦を鬼嫁扱いするなよ！」

藤村　「しかしそうなると新婦は犬か猿か雉になりますが？」

吉川　「そのストーリー受け入れるって言ってないから！　ドンブラは嫌だよ」

藤村　「左様でございますか、人気のプランなんですが。マサカリ担いで熊に乗って入場する方がよろしいですか？」

吉川　「なんで昔話をなぞったプランばっかりなんだよ。もっと普通のあるだろ」

藤村　「しかしせっかくの結婚式でございますから、あまり普通というのもいささかもったいないかと思われますが」

吉川　「結婚式として普通ならいいだろ。面白を入れてるじゃんか。その必要はないだろ」

藤村　「え？　面白なしでいくんですか？　結婚式なのに？　ここで面白くしておかないと、この先地獄しかないですよ？」

吉川　「そういう言い方ないだろ。前途を持って結婚しようと考えてるのに」

藤村　「ちょっとあんまりやったことないプランなので。参加者全員真顔ってことですよね？」

吉川　「別に真顔じゃなくていいだろ。めでたい席なんだから自然と笑みがこぼれる感じで」

藤村　「結婚式なのに？」

吉川　「結婚式に対してネガティブなイメージ持ってるなら、こんな仕事やるなよ！」

藤村　「わかりました。私どももなるべくお客様のご要望に寄り添いたいと思っております。つきましてはお客様の方も、できる限り招待客に麻薬中毒患者などを呼ばないでいただきたいのですが可能でしょうか？」

吉川　「可能だよ。なんで不可能だと思った？　俺の結婚式には絶対にジャンキーが来るって思ったの？」

藤村　「そうしましたら新郎様の招待客と新婦様側の招待客の前科の合計数がいくつになるかだけ、予め教えておいていただければ適切なサービスを提供させていただきますので」

吉川　「ないよ！　いや、ないとは言い切れないけどほぼないだろ。人に対して前科の合計数でカウントすることある？　流石にひどすぎない？」

藤村　「でもこちらはセレブ向けのプランですので」

吉川　「セレブってどういう意味合いで使ってるんだよ！」

暗転