ストロー

藤村 「申し訳ございません、ただいまストローの方がですね……」


吉川 「あー、あれだ。紙ストローになっちゃったんだっけ?」


藤村 「いえ、私どもの気分次第ということになっておりまして」


吉川 「どういうこと?」


藤村 「環境に配慮してということで、会社の方からも厳重に注意されておりまして」


吉川 「環境はわかるんだけど、え? 気分次第?」


藤村 「はい。長さの方を私どもの気分次第にさせてもらってます」


吉川 「どういうことか説明されてもわからないんだけど」


藤村 「いえ、お客様の方は別に気になさらなくても構わないんですが、私どもの会社の方からの命令でそうなっているという理由だけ説明させてもらいました」


吉川 「じゃ、普通にもらえるのね?」


藤村 「そうですね。お客様ですと……いいとこ5cmくらいかと」


吉川 「なんでだよ。短いよ! 5cmじゃカップの底の方まで届かないだろ」


藤村 「あー、その言い方が怖いからもう3cmですね」


吉川 「リアルタイムでジャッジされるの? 3cmって何に使うんだよ」


藤村 「覚醒剤を鼻から吸う時にベストな長さだと思います」


吉川 「覚醒剤を頼んでないんだよ! ドリンクを頼んでるんだよ」


藤村 「2.5cmになってきました」


吉川 「わかった。ごめんなさい。よろしくお願いします。なにとぞ、ストローを普通に使える長さまで」


藤村 「こちらご一緒にナゲットの方はいかがでしょうか?」


吉川 「え、ナゲット? いや、別に……。もらいます。ナゲットもお願いします」


藤村 「かしこまりました。ナゲットいいんですね? 不味いと有名なのに」


吉川 「不味いと有名なのかよ。お店の人があんまりそういう事言わないでよ。買うけどさ」


藤村 「ご一緒に、期間限定の金箔バーガーはいかがでしょうか?」


吉川 「き、金箔バーガー? 高そうだけど」


藤村 「はい。高い、不味い、高い、と三拍子揃った不人気ナンバーワンのバーガーなんですが」


吉川 「高いが二つ出てるじゃん。三拍子揃ってないだろ」


藤村 「あ、失礼しました。不味い、高い、不味いの三拍子でございました」


吉川 「変わってねーんだよ。二拍子しかない上に嫌な要素がダブルなんだよ」


藤村 「ちなみに現時点でお客様に提供できるストローは1.5cmとなっております」


吉川 「減ってるじゃん。だったらナゲット頼まなかったよ。もし金箔バーガー頼んだらどうなるの?」


藤村 「そういった点はお店の方からはお応えできませんので本部の方にお問い合わせしていただかないと」


吉川 「あなたが勝手にやってることでしょ? 本部に聞いちゃっていいの?」


藤村 「まぁ、本部の方としても、そんなこと聞かれても困ると思いますが」


吉川 「金箔バーガー買えば長くなる? それだけ教えて」


藤村 「お客様、大きな声では言えませんが……なります」


吉川 「じゃ、金箔バーガーも」


藤村 「はい、ではお会計が2600円になります」


吉川 「高いな。アメリカの物価だよ。しょうがないか」


藤村 「表示の番号でお待ちのお客様ー」


吉川 「はい」


藤村 「こちら金箔バーガーにナゲットとお飲み物になります」


吉川 「ちゃんとストローはついてるんだろうね?」


藤村 「はい。こちらちゃんとサービスしておきました。80cmになります」


吉川 「あなたストローって使ったことないの?」



暗転

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