バーベル

吉川 「実は勇者様、この村には古より伝わる真の勇者だけが持てる伝説の装備があるのです」


勇者 「ついに探し求めていたものが!」


吉川 「真の勇者であればそれを持てるという伝説があります」


勇者 「俺はこれまで様々な困難に打ち勝ってきた。きっとその武器を手に入れてみせる」


吉川 「ただ今まで勇者を騙った者たちが何人も現れましたが誰も持つことができませんでした」


勇者 「勇者の資格が必要なのか。しかし俺は女神の加護も受け取った」


吉川 「こちらが真の勇者だけが持てると言われている伝説のバーベルでございます」


勇者 「バーベル?」


吉川 「うっす」


勇者 「うっすじゃないよ。バーベル? これが伝説なの?」


吉川 「そう聞いてます」


勇者 「いや、これ持てるかどうかは勇者とかじゃなくて力でしょ」


吉川 「誰も持てませんで」


勇者 「力だもん。重いだけのやつだもん。重さのみ。勇者かどうかをチェックする機能がまったくないやつ」


吉川 「持てなかった偽勇者たちは皆そのようなことを言ってました」


勇者 「そもそも重いだけのバーベルは装備としていらない」


吉川 「持てないと?」


勇者 「いや、持てるか持てないか以前に持ってもしょうがないだろ」


吉川 「またニセ勇者か……」


勇者 「ニセじゃないよ! こっちは女神の加護だって受けてきてるんだから」


吉川 「では伝説のバーベルは?」


勇者 「だからこれを持てるかどうかはパワーでしょ? パワー重視のやつなら持てるわけじゃん」


吉川 「いえ、そんな甘っちょろい重さじゃございませんぞ?」


勇者 「重さは別に挑戦する部分じゃないから。それに対するモチベーションはないんだよ」


吉川 「あー、やっぱりニセなんだ」


勇者 「ニセじゃないけどさ! これやる意味ある?」


吉川 「勇者様を歓迎する宴、貧しいこの村では何年も爪に火を点して貯めた物をみんなで持ち寄りました」


勇者 「なかなか盛大だったと思うよ。感謝してる」


吉川 「それでも真の勇者様だからこそと、嫌がる村人はいませんでした」


勇者 「急に恩着せる感じになってきたな」


吉川 「それがもしニセ勇者だったと知ったら村人たちはどれほど嘆き悲しむか」


勇者 「わかったよ。持ち上げればいいんだろ?」


吉川 「真の勇者ならば可能です」


勇者 「本物じゃなくてもパワーなんだよ。一応鎧脱いでいい?」


吉川 「え? 真の勇者様なのに?」


勇者 「いや、これ鎧自体が結構重いから。あと動きづらいし。持つだけでいいんでしょ?」


吉川 「ズルをしたいと?」


勇者 「ズルではないだろ。鎧脱ぐくらい。わかったよ、着たままやるよ」


吉川 「さぁ、真の勇者チャレンジ、張り切ってまいりましょう!」


勇者 「そのノリで合ってるの? 荘厳さとか全然ないけど」


吉川 「早く! ピピピー、時間切れになりますよ?」


勇者 「時間切れとかあるのかよ! いくぞ、セイッ! うぉおおおおおお!」


吉川 「やや、見事! 更に頭の上まで!」


勇者 「ぬぐぐぐぐ! うぉりゃー!」


吉川 「お見事! チャレンジ成功です! まさに真の勇者!」


勇者 「はぁ……、はぁ……、持ち上げはしたけど、別にいらない。このバーベル」


吉川 「そうですか。では続いて、こちらの更に重いと言われる究極の勇者のバーベルに挑戦しますか?」


勇者 「……ちょっと今、魔王の気持ちわかったわ」



暗転

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