殴れ2

吉川 「藤村、この俺を殴れ! 俺はお前の友情を疑った。お前に殴ってもらうまでは自分が許せない」


藤村 「いいの? よっしゃー!」


吉川 「ちょっと待って。一回待ってもらっていい?」


藤村 「え、やっぱりなしとか言わないでよ?」


吉川 「そのノリなに?」


藤村 「いや、殴っていいんでしょ? よぉし、腕が鳴るなぁ」


吉川 「友を殴るのに腕を鳴らす? 躊躇ゼロなの?」


藤村 「この世界って基本的に人を殴ってはいけないことになってるじゃない?」


吉川 「そうだよ。そこは理解してるんだ?」


藤村 「だから大手を振って人を殴れる機会なんて金輪際ないかもしれないじゃん。お前の友情、有り難く享受させてもらう」


吉川 「そういう意味で友情を使ったわけじゃないんだよ。友情を確かめるためなの!」


藤村 「今更なんと言われようと、もう俺は殴ることしか考えられない」


吉川 「蛮族なの? そんな殴りたがってるやつだと知ってたら別の提案をしたのに」


藤村 「そろそろもういいかな?」


吉川 「すごい前のめってくるじゃん。御託はいいからって気持ちが出てる」


藤村 「どうせ殴れるなら仕留める気でいきたい」


吉川 「仕留める気でくるなよ。友達に対して」


藤村 「もう今は友達ということすら忘れて全力でいきたい」


吉川 「友達だから殴ろうって言ってるんだよ? 友達を忘れたらもう何のために殴られるのかもわからなくなっちゃう」


藤村 「いいから。一回そう言うの忘れて殴りにだけ集中させて欲しい」


吉川 「殴りにだけ集中しないで。複雑な文脈を経ての殴りだってことを意識して」


藤村 「そんなこと言われても、もう身体が殴りたがってるんだ」


吉川 「暴力に支配されるなよ。人としての理性を保ってくれ!」


藤村 「自分から言いだしたくせにさー、なんなの? 結局美味しい餌をチラつかせただけ?」


吉川 「暴力を美味しい餌だと思ってる時点でヤバいんだよ。決して簡単にできないような高いハードルだと思ったらお互いに乗り越えることで何かを証明しようとしたわけで」


藤村 「もう殴りたすぎて何言われても全然入ってこないわ」


吉川 「入れて! 言葉をまず入れて! 殴り欲は一回クールダウンしてくれ」


藤村 「わかったから。とりあえず一度殴ってからちゃんと考えるから」


吉川 「何もわかってないよ。殴るための意識が大事なんだから。とりあえずでやっていいことじゃないんだよ」


藤村 「あのさ、色々言ってるけど、殴るという事実自体は変わらないわけじゃない? だったら四の五の言わずに気持ちよく殴らせてくれよ」


吉川 「お前の気持ちよさのために殴られるわけじゃないんだよ。そこをわかってくれよ」


藤村 「そんなこと言われても殴ったら気持ちよくなっちゃうよ」


吉川 「異常者じゃん! そんなやつだとは思わなかったよ。お前との友情も金輪際終わりにさせてもらうわ」


藤村 「わかった。ただ最後に一発だけ殴らせてくれよ。それだけは約束じゃん?」


吉川 「友情が終わることに関しての感傷は1ミリもないのかよ!」



暗転

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