白バイ

藤村 「はい。前の車止まってくださいー」


吉川 「あっちゃー。白バイかよ」


藤村 「こんにちはー。急いでました?」


吉川 「いや、そういうわけじゃないんですけど」


藤村 「あそこね、一時停止なんですよ」


吉川 「そうでしたか」


藤村 「一時不停止。肝は太えし。態度でけぇし。韻しつけーし」


吉川 「なんでラップしてるんですか?」


藤村 「一応ね。これでも警察仲間の中じゃラップが上手いって言われてるんですよ」


吉川 「いや、知らないですよ」


藤村 「あと年の割には若く見られるんですよ」


吉川 「もっと知らないよ。なに、その情報。ドサクサに紛れてアピールしないでくださいよ」


藤村 「それじゃ母子手帳見せてもらえるかな?」


吉川 「免許証じゃないの? 母子手帳持ち歩いてないよ」


藤村 「なければ免許証で」


吉川 「あれば母子手帳でいいの? どうして? はい、免許」


藤村 「あ、自動車の。他にボイラー技師とかは?」


吉川 「関係ないでしょ。交通違反で捕まったんでしょ?」


藤村 「最近、うちの署のボイラーの調子が悪いんですよ」


吉川 「それはちゃんと業者に頼みなさいよ。こうやって行きずりでボイラー技師探すの果てしなすぎるだろ」


藤村 「一時不停止で2点。肝は太えし。態度でけぇし。韻しつけーし。で、合計5点で免許停止ですね」


吉川 「待ってよ! え? どういうこと? あとの3つは何?」


藤村 「一時不停止。肝は太えし。態度でけぇし。韻しつけーし」


吉川 「それは勝手にあなたがつけたやつでしょ? 何、加算してんの」


藤村 「でも一応ライムなんで」


吉川 「一応ライムだからなんだよ。何の説明にもなってないよ」


藤村 「えーと、ライムというのはですね、母音を揃えたりすることでリズム感やグルーヴを強調して音楽性をより深めるもので……」


吉川 「ライムの説明は聞いてないんだよ。なんでしたの? 求めてると思った?」


藤村 「じゃ、なんなんですか?」


吉川 「それはこっちのセリフだよ。なんなんだよ! 交通違反とラップはなんの関係もないだろ?」


藤村 「はい」


吉川 「はい、じゃないよ。わかってるならなんで? なんでそれをゴリ押すの?」


藤村 「逆に聞きますけど、交通違反と服も関係ないですよね?」


吉川 「服? 服ってこの着てる服? 関係ないよ?」


藤村 「だったらなんで着てるんですか?」


吉川 「服は着るだろ! 人なんだから!」


藤村 「ラップもすると思います。人だから」


吉川 「そんな世界一ラップ愛してる人みたいな素敵なこと言うなよ! お前のラップ愛は伝わったけど、それとこれとは話は別だよ」


藤村 「でも違反は違反ですから」


吉川 「違反は認めてるんだよ。それは飲む。だけど、そのあとのラップの部分は無いものでしょ? なんでつけるの?」


藤村 「なんでって言われても、ラップをするのに理由って要ります?」


吉川 「ラップをするのに理由は要らなくても、違反切符切るのは理由いるだろ!」


藤村 「そんなこと言われても……」


吉川 「わかったよ。お前の魂胆読めたよ。じゃあいいでしょう。フリースタイルラップで対決しよう。俺が勝ったら取り消しってことね?」


藤村 「いや、揉み消そうとしないでくださいよ。公務執行妨害になりますよ?」


吉川 「そんな理不尽あるか!? 猛スピードで公務執行!」


藤村 「はい、これで罰金振り込んでくださいね」


吉川 「無視すんなよ! 恥ずかしいじゃねーか!」



暗転

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