見える

吉川 「亡くなった方が見えるというのは本当ですか?」


藤村 「本当だよ」


吉川 「では、私の亡くなった母と会うことは?」


藤村 「そういうのは無理だよ。あなたの亡くなられたお母さんの魂がいる場所に行けば見えるけど、それがどこかはわからないもん」


吉川 「そうなんですか。その、魂が言ってることがわかったりは?」


藤村 「わかるよ? ただ勝手なことを言われても別にこっちは聞く義理なんてないし。いちいち亡くなった魂の要求聞いてたら身体が持たないよ。こっちは生きてるんだからさ」


吉川 「なるほど。なかなか難しいものですね」


藤村 「うわ! うわあああ! 来るな! 来るなああああ!」


吉川 「ど、どうしたんですか? なにか見えるんですか!? まさか!」


藤村 「コバエがいるな、この辺」


吉川 「コバエ。すごい強めのリアクションしますね」


藤村 「虫全般が苦手なんだよ」


吉川 「そうだったんですか。ちなみにあの辺のにぎやかな場所に誰かの魂はいたりします?」


藤村 「いや、そういうところにはいないな」


吉川 「なるほど。そうなんですか、例えばどんなところにいるんですか?」


藤村 「例えば? そりゃ、天国とか地獄とかにいるんじゃないの?」


吉川 「あ、はい。まぁそれはそうでしょうけど。この現実の世界で比較的いる場所とかは?」


藤村 「え? なんでそんなこと聞きたがるの? 怖っ!」


吉川 「べ、別に悪用しようとか思ってるわけじゃなく。ただ興味本位で」


藤村 「興味本位で? 人の魂を何だと思ってるの? お前の欲望を充足するために命はあるわけじゃないんだよ?」


吉川 「思った以上に人権を解いてきた。確かにそうですね」


藤村 「あっ!?」


吉川 「どうしました?」


藤村 「バカッ! そっち見るな」


吉川 「え? ひょっとして……」


藤村 「あそこにいるやつに金借りたままなんだよ」


吉川 「あぁ、いる人。あの現実の人に」


藤村 「絶対目を合わすんじゃないぞ」


吉川 「返したほうがいいですよ。お金は」


藤村 「そんなことはわかってるよ。お前に正論説かれたくないんだよ」


吉川 「なんかすみません」


藤村 「うわっ! なんだあれ!?」


吉川 「どうしました?」


藤村 「あんなの見たことない。なんなんだあれ?」


吉川 「どれです?」


藤村 「ほら、あそこの。あ、あの人。志茂田景樹さんか。初めて見たー!」


吉川 「人! 現実の! 志茂田景樹さん。そりゃビックリするよね。急にこういうところで見たら」


藤村 「意外と有名人とか見たことないのよ。ジョン・F・ケネディとプレスリーは見たけど」


吉川 「え? すごいじゃないですか」


藤村 「でももう亡くなったあとだったから」


吉川 「見えるんだ。そのレベルの人たちも」


藤村 「別にいいことなんてほとんどないよ。シックスセンス見た時だって全然意味分からなかったし」


吉川 「わからなかった? あー、逆にわからないのか。多分あなただけですよ、ちゃんと見て意味がわからなかった人」


藤村 「別に何が? って思ったもん」


吉川 「見える人ならではのエピソードとかないんですか?」


藤村 「ないね。俺にとってはこれが日常だから。別に取り立てて語るようなことでもないんだよな。だからもう掘り下げても無駄だよ」


吉川 「そんな。せっかく亡くなった人が見える人に会えたのに」


藤村 「お前みたいのに付き纏われると迷惑なんだよー。なんか独り言言ってるみたいに見えちゃうし」



暗転

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