悪い

藤村 「この間すごいムカつくことがあってさ!」


吉川 「どったのよ。えらい剣幕で」


藤村 「なんか大声で喚き散らして自動車に蹴りを入れてる人がいたんだよ」


吉川 「なにそれ、誰の車?」


藤村 「誰の車かは知らないけど、ボディとか結構凹んでてさ。こりゃヤバいと思って警察呼んだのよ」


吉川 「偉いな。俺なら関わり合いになりたくない」


藤村 「そしたら俺まで連行されてさ。結構な勢いで勾留されて」


吉川 「は? なにそれ? 理不尽だなぁ。通報しただけでしょ?」


藤村 「そうだよ。それで警察からメチャクチャ尋問されて。しまいにはお説教までされて」


吉川 「警察ってそういう傲慢なところあるんだよなー。自分が正義だと思ってさ。俺も嫌いだよ」


藤村 「こっちは発情バンパイアの格好してただけなのに」


吉川 「それはお前が悪いよ」


藤村 「は?」


吉川 「いや、それは明らかにお前が悪い。そもそも何よ、発情バンパイアって」


藤村 「発情してるバンパイアだが?」


吉川 「だが、じゃないよ。なんでご存知でしょうがみたいな顔してるんだよ。知らないよ、そんなの」


藤村 「こう、ハイレグになってて胸のあたりからヘソまで切れ込みが入っててさ」


吉川 「それはもうお前が悪いよ。発情バンパイアの格好してる人がいたらまずそっちを連行しちゃうもの」


藤村 「俺はなんにもしてないじゃん。通報しただけ。善意の。完全プライベートだったし」


吉川 「プライベートで発情バンパイアの人は事情を聞かざるをえないよ。治安維持には必要なことだもん」


藤村 「こんなに共感されないとは思わなかった。あと別の話もあるんだけどさ」


吉川 「エピソードが聞いたことない角度なんだよなぁ」


藤村 「この間、株主総会に出席しようと思ったら止められてさ」


吉川 「変な格好してたんじゃないの?」


藤村 「普通。むしろ全身ユニクロ。ユニクロの店員におまかせで選んでもらったから」


吉川 「ちょっと金持ちの買い方をユニクロでするなよ。それなのに? 武器とか持ってたの?」


藤村 「持ってくわけ無いじゃん。株主総会だよ? 株主だから行っただけだよ」


吉川 「じゃ、なんで止められたんだろうな」


藤村 「本当だよ。身長5メートルの弟の肩に載ってただけなのに」


吉川 「それはお前が悪いよ」


藤村 「何もしてないんだよ?」


吉川 「あと弟も悪いよ」


藤村 「弟は性格も優しいし、食べ物だって好き嫌いなく何でも食べるんだよ?」


吉川 「何でも食べて育ち過ぎだよ。肩に兄乗せる弟はもう戸愚呂だもん。来たら止めるよ」


藤村 「弟は引っ込み思案だから、こういう場所は一人じゃ来れないんだよ」


吉川 「連れてきてもいいけど、肩に乗るタイプの連れ方は考えた方が良いよ。見ないでしょ、あんまりそういうスタイルの人」


藤村 「なんか全然共感してもらえないな。もっとこう、俺が気の毒な感じの反応が欲しいんだけど」


吉川 「どっちかというと、相手の方が気の毒なエピソードだもん」


藤村 「じゃ、これは? 夜中、繁華街でさ、なんか男たちが喧嘩してたわけよ。周りに結構人がいるのに誰も止めないしさ。しょうがないから止めに入ったら周りの奴らが全員俺に向かってきたんだよ」


吉川 「今度はどんな格好してたんだよ」


藤村 「全身GU。武器も持ってない。ただ覇王の闘気は身に纏ってたけど」


吉川 「それはお前が悪いよ」


藤村 「止めただけだよ?」


吉川 「ただ喧嘩を止めるやつが覇王の闘気は身に纏っちゃダメだよ。全身GUで覇王の闘気だけってのは、全裸でシャネルの5番だけのマリリン・モンローと同じくらい脅威だからね」


藤村 「俺が悪いの?」


吉川 「覇王の闘気はマズイって。そもそも具体的にどんなものだかわからないけどさ」


藤村 「こういういの。ハッ!」


吉川 「あ……、はい。悪くないです。すいませんでした」


藤村 「思ってたリアクションと違うなぁ」



暗転

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