ウィン

藤村 「和菓子をくれないと村八分にするぞ?」


吉川 「なにそれ?」


藤村 「は? ノロウィンに決まってるじゃないか。何を言ってるんだ」


吉川 「お前が何を言ってるんだよ。知らないよ、そんなの」


藤村 「え? 本当に知らないの? 今若者たちの間で密かに流行り始めてる、ハロウィンの一週間前に開催されるという呪いのフェスティバル、ノロウィン」


吉川 「すごいしっかりと説明してくれたな。日常会話のレベルじゃない」


藤村 「まさか知らないとは思わなかった」


吉川 「なに? ノロイン?」


藤村 「ノロウィンね。ハの一個前だからノ。50音順だから」


吉川 「全然上手いこと言ってないよ。なにそのおじさんがウィットを効かせて考えました、みたいの」


藤村 「もうこれが大人気なわけですよ。港区とかで」


吉川 「全く聞いたことない」


藤村 「これがノロウィンロール。昔からノロウィンで食べられてるロールケーキで丑寅の方角に向かって寂しそうにかぶりつく」


吉川 「なんか広告代理店が全部考えて押し付けてきた感があるな」


藤村 「そんなこと言ったらハロウィンだってそうでしょうが! ここ数年認知されてきただけで。あんなのみんなバカにしてたでしょうが!」


吉川 「そうかもしれないけど、ノロウィンはないよ。元となる風習もないじゃん」


藤村 「ありますー! 宮城の奥の限界集落でおばあちゃんが『そんなのあった』って言ってましたー!」


吉川 「そりゃ無理やり探せば、なんらかはあるだろ。でもそんなものは伝統でもなんでもないぞ?」


藤村 「これが流行ってくれないと、再来週のヒロウィンの夢も潰え得てしまう」


吉川 「なんだよ、ヒロウィンって。ハロウィンの次の週だからヒ?」


藤村 「ヒロウィンで大アイドルフェスを開催して、日本を代表するその年のアイドルを決定するという色々なスポンサーを巻き込んだ大掛かりなイベントだよ。キミこそヒロウィン!」


吉川 「ヒロインを。それこそ広告代理店が考えてやつだろ? 今の人はそうやって全部ガワから考えられたものは乗れないんだよ。自分たちの中で自然発生的に芽みたいのが生まれてそれが育って大きくなるのは喜ぶけど」


藤村 「ノロウィンにはノロウィルスに気をつけましょうという社会的なメッセージも込められてる」


吉川 「取ってつけただろ。それこそ取ってつけた! 別にいいことじゃなくてもいいんだよ。クリスマスだってバレンタインだってメッセージ性ないだろ。ガワから作るから屁理屈こねだすんだよ」


藤村 「大きな意味で愛がテーマでしょ」


吉川 「この世にあるもの、綺麗事で言えば全部大きな意味で愛がテーマだよ。逆に言えば愛をテーマにしてるものなんて、そもそも無理やり作った空っぽのものばっかりだよ」


藤村 「チクショウ! 何言っても論破してくる。いいんだよ、昔はハロウィンだってみんなそうやってバカにしてた。見てろ? 数年後にはノロウィンだって大イベントになって自分が間違ってたと思い知るんだ。こういうのはな、お前らみたいな陰キャの理屈ばっかり言うやつの間ではやるんじゃないんだよ! もっとただ楽しいことだけしたい。あとは知らない。というやつらの間で流行るんだ」


吉川 「むしろそういうそうを小馬鹿にしてないか?」


藤村 「その証拠に一ヶ月後にはさらなる大ぶち上げイベントが予定されてる」


吉川 「ノロウィンから一ヶ月後?」


藤村 「ヘロウィン」


吉川 「ダメ、絶対!」



暗転

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