人生ゲーム

藤村 「オリジナルの人生ゲームを作った」


吉川 「このご時世、オリジナルの双六を作ってる人なんてあまりいないぞ」


藤村 「俺はね、常々人生ゲームに不満があったんだよ。だいたいさ、ゲームで遊びのはずなのに、なんで不幸なことが起きたり不愉快な結末を味わわなきゃいけないの?」


吉川 「そういう酸いも甘いもかみ分けたのが人生なんだよ」


藤村 「どうせ遊びなんだからずっと楽しいだけでいいじゃん。俺は楽しむために遊びたいもん」


吉川 「スイカに塩をかけるみたいなもんで、ちょっとしたエッセンスがより美味しさを演出するんじゃない?」


藤村 「現代人はスイカに塩なんてかけない!」


吉川 「最近のスイカは甘いからなぁ」


藤村 「だからいいことだけしかおきない人生ゲームを開発した」


吉川 「なるほど」


藤村 「もうね、どこに止まっても嬉しいことだらけ。ものすごい盛り上がる」


吉川 「ある意味面白そうだな」


藤村 「さっそくやろう」


吉川 「つきあうか」


藤村 「まずね、コマが違う。俺のは超高級車。3200万円くらいのやつ」


吉川 「それ何か関係あるの?」


藤村 「気分の問題」


吉川 「そうか。まぁ、大事だな。気分は」


藤村 「お前のなんかもっとすごいぞ。なんてったって馬」


吉川 「え?」


藤村 「競走馬、サラブレッド。しかも、すごい早いやつ」


吉川 「いや、馬って。やだよ、普通に自動車にしてよ。俺も高級車がいいよ」


藤村 「バカ! いい馬っていうのは、それこそ自動車の比じゃないんだよ。数億とか数十億するんだから。やったな!」


吉川 「いや、普通に車がいいんだけど」


藤村 「では、はじめます。ルーレットスタート。えっと、俺のマスは……。『幼少期に受けたIQテストがとんでもない成績のため、国を挙げての大騒ぎ。将来を約束される』だ」


吉川 「すごいなー。人生ゲームなのに、いきなり将来を約束されちゃったら、その後の人生は何をやるんだ」


藤村 「こういう、いいことしかでないゲームなんだよ。楽しいだろ?」


吉川 「なかなか楽しそうだね。じゃ、俺のマスは……。『四葉のクローバー拾う』」


藤村 「お、やったじゃん。ラッキー。じゃ、次ね」


吉川 「待って待って。なんか、あれじゃね? スケール小さくなってね?」


藤村 「何言ってんだよ。四葉のクローバー嬉しいだろ?」


吉川 「嬉しいけど……。何の将来も約束されてないし」


藤村 「そのうちでるよ。じゃ、次は……。『小学生にして8つの技術特許を取得、億万長者になる』だ。うわー、ついてるなぁ」


吉川 「じゃ、俺ね……。『星型のピノが入ってた』」


藤村 「いいねー。じゃ、次ね」


吉川 「待て! なんつーか、気分が悪い」


藤村 「なんで? ラッキーだろ?」


吉川 「ラッキーだけどさ。思ってたのと違うって言うか」


藤村 「じゃ、なにか? 嫌なことが書いてあったほうがいいのか?」


吉川 「そうじゃないけど」


藤村 「贅沢言うなよ。現状を笑える人間が幸せなんだぞ」


吉川 「そういうもんか」


藤村 「次……。『余ったお金を恵まれない人にあげていたら、勝手に世界的な偉人になってた』だって」


吉川 「スケールでかいな。じゃ、俺の……。『卵を割ったら黄身が二つも』」


藤村 「ついてるねー。羨ましいなぁ」


吉川 「……」


藤村 「そろそろ社会人になる頃だけど。地位も金も名声もあるからなぁ、就職どうするのかなぁ……。『庭を掘ったら油田が出た』だって。参ったなぁ」


吉川 「ふぅーん、じゃ、俺も……。『就職が決まった。石油採掘会社の雇われ社長、月給600万円』」


藤村 「おー、いきなり社長か」


吉川 「いや、なんかね。タイミングがすごい嫌な感じがするんだけど」


藤村 「え?」


吉川 「お前、油田見つけたばっかりで、俺が採掘会社って、なんかお前に雇われてるみたいじゃんか」


藤村 「勘ぐりすぎだよ」


吉川 「なんか全然嬉しくない」


藤村 「じゃ、お前は月給600万の社長になりたくないのか? 今の人生はそれよりも幸せなのか?」


吉川 「いや、そうじゃなくて」


藤村 「いいじゃん。十分幸せじゃんか! 何文句言ってるんだ。現実はもっと厳しいのに」


吉川 「……ごめん」


藤村 「いいよ。じゃ、次ね……。『気がついたら世界一のお金持ちに』だって」


吉川 「なんかボキャブラリィの貧困な金持ち感だけど、おめでとう」


藤村 「ありがとう。さ、お前も幸せになりたまえ」


吉川 「そろそろ、いいのがでるかな……。『アンケートに答えたら、140万円相当の新車が当たった。お祝いに馬刺しをたらふく食べた』って待てぇい!」


藤村 「ラッキー!」


吉川 「ラッキーか! アホか! 俺の馬は数十億なんじゃ! なんで食べちゃうかな。俺のマチカネコンチネンタルが」


藤村 「車の方がいいって言ってたくせに、名前までつけていたのか」


吉川 「全然嬉しくない! ダメだ、こんな人生ゲーム。もっとアレだ。リアルさが欲しい!」


藤村 「いいじゃん。楽しいじゃん」


吉川 「ダメー! 楽しくないもん。こういうのはね、人をダメにする」


藤村 「一応さ、超リアル人生ゲームってのも作ったんだ」


吉川 「ほぉ」


藤村 「その人の生年月日から身体的特徴とか性格とかを入力してシミュレートしていくの」


吉川 「それやろう! 俺にそれをやらせてくれ! きっとすごいデータが出る」


藤村 「いいよ。じゃ、入力するね」


吉川 「やっぱりねぇ、多少の障害もあったりするほうが、人生の味みたいなものがでるんだよね」


藤村 「はい、できたよー」


吉川「 よし、やるか! さて俺の次のマスは……。アレ?」


藤村 「どうした?」


吉川 「なんか、いきなりゴールって」


藤村 「あぁ」


吉川 「なんなの? クリアしちゃったの? いきなり? 俺、すごくない?」


藤村 「うん……。詰んでるな」


吉川 「詰みの概念を持ち込むなよ、人生に!」



暗転


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