滑舌

藤村 「角煮作って盛大にやろうと思うんだよ」


吉川 「いいねー。豚の?」


藤村 「おいっ! 失礼だな。何だ急に」


吉川 「え? 何が?」


藤村 「人を豚呼ばわりして何がもないだろ」


吉川 「だってそっちが角煮作るって言うから」


藤村 「言ってねぇよ! 滑舌悪いから直そうとしてるのに!」


吉川 「滑舌? そう言ったの? ごめん、角煮に聞こえた」


藤村 「あぁ、俺の滑舌のせいか。本当にこういうこと多いんだよね。参っちゃうよ」


吉川 「滑舌かぁ。俺はそんなに悩んだこと無いけど、どうするの?」


藤村 「例えば早口言葉とか。あと大きく口を動かして話す練習とか」


吉川 「大変だなぁ」


藤村 「大変なんだよ。早口言葉はすごい苦手でさ。ぶりっ!」


吉川 「ん?」


藤村 「ぶりっ! ダメだぁ。全然できない」


吉川 「それは何を言おうとしてるの?」


藤村 「早口言葉。一番有名なやつ。卵の」


吉川 「生麦生米生卵?」


藤村 「それ。ぶりっ! ダメだぁ、すぐつっかかる」


吉川 「一文字目で? 一文字目で間違えてるし、『り』はどこから来たの? 『なま』だよ?」


藤村 「わかってるんだよ、そんな事は言われなくても! でもできないんだよ」


吉川 「そのレベルでできないんだ。『ぶ』じゃなくて『な』から始めよう、ゆっくりでいいから」


藤村 「なー」


吉川 「そう! いいよ!」


藤村 「ぼー」


吉川 「なんで? 『ま』だよ」


藤村 「わかってるけど、早く言おうとすると焦って言えなくなるでしょ。それが早口言葉なんだから」


吉川 「俺の知ってる早口言葉の言えなさ違うんだよな」


藤村 「滑舌悪いからしょうがないんだよ」


吉川 「それ、滑舌の問題かなぁ。『あえいうえおあお』って大きくゆっくり言ってみて」


藤村 「ジョージョージョージョー……」


吉川 「ちょっと待って。ゆーっくりでいいから。『あえいうえおあお』」


藤村 「ジョージョージョージョー……」


吉川 「『ジョ』だもんそれは。最初から最後まで『ジョ』だもん。『ジョ』になる理屈が何一つわからない」


藤村 「だから滑舌が悪いから」


吉川 「それはもう、なんかスタンド攻撃を受けてるんじゃない?」


藤村 「そんなことないよ。スタンド攻撃だけは絶対に受けてない」


吉川 「言い切れるんだ。まぁ、普通は受けてないけど」


藤村 「俺が滑舌悪いのはしょうがないけど、ちょいちょい当たりが強いぞ」


吉川 「あぁ、ごめん。心配はしてるからさ」


藤村 「カワバンガ!」


吉川 「え? なに? なんて言った?」


藤村 「カワバンガ!」


吉川 「ごめん、滑舌のせいかな、ちょっと聞き取れなくて。なんて言ってるかわからなかった」


藤村 「そうか。ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルがなんかした時に言う言葉だよ」


吉川 「あ、本当にカワバンガって言ってたんだ」


藤村 「言ってたよ」


吉川 「急に耳馴染みのない言葉を言われたから脳が受け付けなくて」


藤村 「もうこうなったら何を言っても信じてもらえないじゃん」


吉川 「ひょっとして今までの話も聞き間違えてやり取りしてたんじゃないかと不安になるよ」


藤村 「そんなことないだろ。で、豚の角煮作ったらお前も食べに来る?」


吉川 「まさか今までずっと豚の角煮の話してた?」



暗転

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