気持ち

藤村 「見て見て。これ」


吉川 「うわっ! 気持ち悪、なにそれ。大丈夫?」


藤村 「お前にはかなわないよ。これ、ハロウィン用の特殊メイク」


吉川 「あー、そうなのか。まじですごい傷かと思った」


藤村 「こういうのもある」


吉川 「うわぁ! 気持ち悪い。傷の奥から目玉が見てるじゃん。でもこっちの方が逆に嘘だってわかるね。さっきのは本当に大怪我したのかと思ったから」


藤村 「お前に比べたら全然だよ。ハロウィン本番はもうちょっと凝ったことしたいんだけど」


吉川 「俺ってなんかしてた?」


藤村 「なにが?」


吉川 「なんかさっきから褒めてくれるから」


藤村 「そりゃそうだよ。いくら俺がこんな小手先の仮装で頑張ったところで本物にはかなわいないから」


吉川 「本物ってなに?」


藤村 「本物の気持ち悪いやつだよ」


吉川 「全然褒めてなかったな。俺は本物じゃないよ」


藤村 「ほら、そうやって本人が無自覚な辺り本物の風格があるんだよなぁ」


吉川 「悪かったな! お前がどう思おうと勝手だけど」


藤村 「俺だけじゃなくてみんな引いてるよ」


吉川 「引いてるの? みんな噂してるとかじゃなくて?」


藤村 「後輩に『なんかすごいのがいる』って相談受けたこともあるし」


吉川 「クリーチャー扱いされてるわけ?」


藤村 「でも大丈夫。見た目だけで危害は加えてこないからって安心させておいた」


吉川 「見た目は肯定されてるんだ。気持ち悪いが全会一致で」


藤村 「中には警察に通報する人もいるみたいだけど、警察の方も慣れてるから『あの人は大丈夫みたいです』ってすぐ対応してくれるらしい」


吉川 「対応がマニュアル化されるほど頻繁に通報を受けてるのか」


藤村 「ただすごいのはさ、何も悪いことしてないじゃん? 俺だってこうして普通に話してるし、ネガティブな存在じゃないんだよ。ただ見た目だけで気持ち悪いっていうさ。言ってみれば存在だけで可愛いマスコットキャラと似たようなもんだよね。与える印象が逆なだけで」


吉川 「なんのフォローにもなってない。俺の見た目が気持ち悪いということを、色々な角度から刺してきただけにしか思えない」


藤村 「いや、気持ち悪いは気持ち悪いんだけど、気持ち悪さってある意味知らないことから来る恐怖もあるわけじゃん? ゴキブリだって専門家が調べてる時に気持ち悪いと思わないわけで」


吉川 「同列なの? 例えで出てほしくないんだよ、ゴキブリは。一瞬たりとも」


藤村 「ある種の特別ってことだよ? だって見てご覧よ。世の中の殆どの人間は何の個性もなく別に気持ち悪いとも気持ちいいとも思われてないんだよ? そこを突出して印象を与えるってことはすごいことだよ」


吉川 「お前に悪意はないし、こっちに気を使ってくれてることはわかった。ただショックはショックだよ。気持ち悪いと思われてるなんて」


藤村 「見た目だけ! 人間的にはいいやつ。親友だから!」


吉川 「こんなやつを親友と思ってくれてありがとう。ハグしたくなったよ」


藤村 「うぇっ、気持ち悪っ!」


吉川 「おいーっ!」



暗転

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