前から

藤村 「あれっ!? ひょっとして……」


吉川 「え? なに?」


藤村 「髪型変えた? なんかクルンってなってるじゃん。いつもより可愛い」


吉川 「前からだけど?」


藤村 「そうだった? 前からそんなんだっけ?」


吉川 「うん。昨日もそうだったよ」


藤村 「あれ~? なんか雰囲気変わった気がするんだけど。前からか。前っていつ?」


吉川 「いつかは覚えてないけどもう結構こんな感じだよ」


藤村 「あれ、会ったのってそれ以来ってこと?」


吉川 「昨日も会ってる。何ならさっき、朝一度挨拶した」


藤村 「だよね。帽子かな、帽子被ってたから気づかなかったのかもしれない」


吉川 「被ってないけど?」


藤村 「じゃ、強風だ。ちょうど会ってる時、強風で髪がブワーってなってて気づかなかったんだ」


吉川 「そんなことある? 風のない時に会ったこと一度もなかったっけ?」


藤村 「あ、ひょっとして、アイメイクかも。変えたでしょ? なんか違うと思った」


吉川 「前からだけど? 初めて言われたけど結構前からこれだよ。やっと気づいた?」


藤村 「前から? 前っていうのは時間軸の話?」


吉川 「普通そうでしょ。位置関係の話だとしたら意味がわからないもの」


藤村 「あぁ、そう? 前からそんなだった? そうだ、前はさ、ほら。常に暗視ゴーグルつけたじゃん? だからちゃんと見たの初めてかも」


吉川 「常に暗視ゴーグルつけてる人間がいたら、変化に気づくよりもそこを注意しない?」


藤村 「でも会ったの大体夜だったじゃない?」


吉川 「俺って夜になると暗視ゴーグルつけるタイプだと思われてるの?」


藤村 「違うか。あ、ひょっとして顔にトライバルのタトゥ入れてる?」


吉川 「ううん、入れてない。入れようと思ったこともない」


藤村 「前からぁ」


吉川 「前もないし、今もないよ。何が見えてるの? ちゃんと俺を見てる?」


藤村 「でもなんか変わったよね? なんだろ、内臓に問題がある?」


吉川 「見た目で? 見た目でそれがわかった? 名医なの? 凄い怖いこと言わないでくれない?」


藤村 「多分、肝臓じゃない?」


吉川 「静かな臓器と言われてる、なにかあっても気づきにくいとされてる俺の肝臓に? いち早く気づいたの?」


藤村 「前からかぁ」


吉川 「それも怖いな。前から悪かったら、もうかなり進行してるってことじゃん。一応検査の予約しておくか」


藤村 「でも前はもっと目がつり上がっていて歯がむき出しで角が生えてて色合いも今と逆じゃなかった?」


吉川 「なにそのニセモノっぽさ。ニセウルトラマンとかのやつじゃん。全然違うのに何故か周りの人は気づかないっていう」


藤村 「前から?」


吉川 「前というか、生まれてから一度も角はないよ」


藤村 「あれ? そうだっけ? 前からじゃないの?」


吉川 「その前に会ってた人物、本当に俺? 話聞いてると違う人の気がするんだけど」


藤村 「お前、吉川だよね?」


吉川 「そうだよ。ニセ吉川じゃないよ」


藤村 「で守護霊も前から一緒だよね?」


吉川 「そこを見て言ってたの? 最近イメチェンしたんだ、俺の守護霊」



暗転

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