ご当地

吉川 「なんとこちらでしか食べられないご当地グルメがあるということで」


藤村 「そうですね。ただ私どもとしましては昔から普通に食べてるものなので、都会の派手な料理と比べると気恥ずかしい部分もありまして」


吉川 「いいえ。そういうのこそ魅力があるんですよ」


藤村 「遠くから来てくれた方が喜んでくれてるようなのでね、あんまりオシャレではないですよ?」


吉川 「大丈夫です。そういう料理こそエモいと若い人たちに人気なんですから」


藤村 「じゃ、まずご飯。お米ですね」


吉川 「このお米はこちらで取れたお米なんですか?」


藤村 「いえ、隣の隣の県で取れたカスヌメリです」


吉川 「カスヌメリ。コシヒカリみたいな。その新米を」


藤村 「古古米です。カスヌメリの。ちょうど隣の隣の県が米どころなんで」


吉川 「隣の隣の県って、まぁまぁ遠いですね。やはりそこのお米にこだわりが?」


藤村 「安いんですよ。あんまり美味くないって言われてて」


吉川 「あー。まぁでも、お値段も重要な要素ではありますからね」


藤村 「ご家庭で作る時にない場合はトルティーヤでも大丈夫です」


吉川 「大丈夫じゃないでしょ。米がトルティーヤに変わって大丈夫な料理ってあります?」


藤村 「大体でいいんで。あとは野菜ですね」


吉川 「野菜。こちらは?」


藤村 「やっぱり季節のものがいいですね。ない場合はハラペーニョでも大丈夫です」


吉川 「季節の野菜の代わりに? ハラペーニョでいいんなら、季節のってこだわらなくてもいいんじゃないですか?」


藤村 「ハラペーニョは一年中美味しいから」


吉川 「そうですか。お野菜を炒めまして、次に?」


藤村 「Lチキです」


吉川 「鶏肉ということで?」


藤村 「いいや。Lチキがいいな。ローソンが一番近いんで」


吉川 「ここからの距離の都合? ない場合は鶏肉を揚げたものでも大丈夫ってことですよね?」


藤村 「そんなわけないでしょ。Lチキじゃないとダメですよ」


吉川 「ダメなの!? さっきは割と雑に替えてたけど、ここだけこだわってるの?」


藤村 「ローソンは近いから」


吉川 「いや、それはここ限定の話でしょ。ローソンよりもファミリーマートが近いお宅だってありますよ。その場合はファミチキでも大丈夫ですよね?」


藤村 「そんなもの食えたもんじゃないですよ」


吉川 「そこまで!? それは精神的なものでは?」


藤村 「近くにファミマないんだよ! やっぱりローソンが一番。一番近い!」


吉川 「近さで。わかりました。味付けの方は?」


藤村 「味付けは主に塩です。ない場合はサルサソースでも大丈夫です」


吉川 「それは完全に違う料理になるのでは? ありますかね、塩はないけどサルサソースがちょうどあるご家庭。塩の代わりに醤油でも大丈夫ですか?」


藤村 「醤油だとちょっとクセが出ちゃうんでできれば塩、最悪なにもなければスイートチリソースでもいいですよ?」


吉川 「どうして!? 醤油のクセを気にする味覚がスイートチリソースを通すわけ? 一番ダメじゃないですか?」


藤村 「最終的に味が整えばいいんで、ご当地グルメと言っても完璧な正解っていうのはないんですよ。各家庭ごとにアレンジもありますし」


吉川 「だったらファミチキでもいいんじゃないですか?」


藤村 「ファミチキ使ってた家は村を出ていきましたね。やっぱり色々と耐えられなかったみたいで。ご当地ならではですから」


吉川 「ならではなのは、そういう陰湿な部分ですか。そういうのならもういいです、ご当地グルメ」


藤村 「いやいや。このまま黙って村を出れると思わないでくださいね」



暗転

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