神  「呼んだ?」


吉川 「うわっ、眩しっ! え? 誰?」


神  「あれ? 呼ばれたと思ったんだけど。違ったかな」


吉川 「ひょっとして神様?」


神  「あ、やっぱり呼んでた? よかったー。自意識過剰かと思ったよ」


吉川 「えー。そんな、呼んで本当に来てくれるんですか?」


神  「場合によるけどね。近かったし。午後の予定なかったから」


吉川 「あー、そんなタクシー配車みたいなシステムなんですか。でも良かった。もう仕事がトラブル続きで、明日までに入金がないともううちの会社潰れちゃうんですよ」


神  「なるほど。そういうのかぁ。申し訳ないんだけどちょっとうちは管轄が違うなぁ」


吉川 「管轄とかあるんですか?」


神  「あるよ、そりゃ。まさか一人の神がこの世のすべてを司ってると思ってる? 君、一神教?」


吉川 「あ、いや。なんかそういう宗派的なものはよくわからないんですが。だったらその管轄の神様に連絡してもらうとかってできます?」


神  「それは無理だよ。神にもできることとできないことがあるから」


吉川 「できないんですか? 割とできそうなことに思えるんですが。連絡だけでも」


神  「ムリムリ。神って横のつながりが弱いんだよね。みんな仲悪いからさ」


吉川 「仲が悪くてできないんですか? 神様が」


神  「だって性格悪いやつ多いもん。うちの知り合いで連絡取れるのは、スナック菓子を全部食べた後の粉状になったカスをザーって食べるのを司る神くらいしかないな」


吉川 「なにその神? スナックの袋に口で受け止める体勢で傾けて指で軽くパンッて弾いた時の神? それ限定?」


神  「そうだね。もうあの神にかかれば一粒漏らさず全部ザーって来るから。こぼれ知らず。あれはすごいよ」


吉川 「いや、それも凄いかもしれないけど。別にそれ、できなくてもよくありません?」


神  「は? できなくてもいい?」


吉川 「いやいや。できた方がいいかもしれないですけど、神様が司るほどのことですか?」


神  「なに? 神が司るかどうかをお前が決めつけるの? 一般の人間の。さしたる力もない。潰したら死んじゃう程度の生き物のお前が?」


吉川 「あの、言い過ぎました。上手くいかないこと続きで余裕がなくて」


神  「マジ気をつけろよ? 人間はたまに驕ることあるから。バベルの塔のことだってまだ許してないからな」


吉川 「バベルの塔のことまで責められるとどう答えていいかわからないんですが。ちなみにあなたは何を司る神なんですか?」


神  「言うのやだな、この流れで。絶対馬鹿にするだろ。人間の尺度で価値を勝手に決めて」


吉川 「すみませんでした。しません。絶対にしません」


神  「うちはセロテープなんだけど。セロテープを使う時に切れ目がすぐに見つかるかどうか。上手く剥がれるかどうか。俺が放っておくとだいたい筋みたいにピーって細く切れちゃうから」


吉川 「はぁ。わかりました。セロテープね」


神  「ほらぁ! 何だよその顔。すげぇバカにしてんじゃん」


吉川 「してません。ただ余裕がなくて。なんかもうすみません」


神  「わかったよ。じゃ、うちの知り合いで一番ノッてるやついるから。それは人間ごときの価値観でも凄いと思う」


吉川 「何を司ってるんですか?」


神  「時間」


吉川 「え? めちゃくちゃすごいじゃないですか! それならひょっとして私の悩みもなんとかなるかも!」


神  「だろ? 今、あれやってるから。時を止めるAV」


吉川 「あ、やっぱいいです」



暗転

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