天然

藤村 「一応俺、天然なんで」


吉川 「あんまり天然キャラを自称してる人信用出来ないけどね」


藤村 「でもよく言われるんですよ? あれ」


吉川 「あれって?」


藤村 「『だから褒めてねえっつーの!』ってやつ」


吉川 「それ本当に言う人いるんだ。どんなタイミングで言われるの?」


藤村 「主に褒められてない時ですね」


吉川 「そりゃそうだろ。そうだろうなぁとは思ったよこっちも。もっと具体的にどういう時かあるでしょ」


藤村 「友人が勤めてたブラック企業の勤務実態をSNSで公表したらスラップ訴訟されたんですけど」


吉川 「その時点で天然キャラがやることじゃなくない? しっかりしてる。おはぎを食べた時の腹持ちくらいしっかりしてる」


藤村 「その時に相手の弁護士から『いい度胸してる』と言われたので謙遜したら言われました」


吉川 「だから褒めてねえっつーの! って? それは天然キャラの言われ方じゃないね。嫌味が通じなくて悔し紛れだもん」


藤村 「えー? でも天然の人ってよく言われるんじゃないですか?」


吉川 「よく言われるかどうか知らないけど。こういう言い方は何だけどもうちょっと知性の感じられないやりとりの後で言われるんだと思うよ」


藤村 「知性は全然出してないです。天然なんで」


吉川 「出してる出してないは相手が評価することだから。天然キャラってのは迷惑なバカを愛嬌で覆い隠して納得するためのものなのよ」


藤村 「でも俺、天然に関しては割とこだわりがあるんですよ」


吉川 「それがダメなんだよ。天然はこだわってないから天然なんだから。こだわり職人はたまたまを許さないもの」


藤村 「どうあっても俺が天然だと認めないつもりですか? このままだとお互い平行線なんで話し合いで落とし所つけません?」


吉川 「天然はつけないんだわ、落とし所を。落ちたところにいるのが天然なんだから。気づいたら奈落、それが天然」


藤村 「あっ! 財布社内に忘れてきちゃった。スマートタグが会社指してるわ」


吉川 「もう無理だよ。急に天然っぽいエピソードだしてきても身の丈に合ってないもの。天然はスマートタグをつけないんだよ。この世に存在する天然、一人もスマートタグつけてないんだから。断言できるから」


藤村 「お言葉ですけど、それはあくまであなたの定義する天然の枠なわけで。そこから逸脱したとして天然ではないとレッテルを貼る行為は看過しかねます」


吉川 「もう全部天然じゃないのよ。自分で言っていておかしいと思わない? 天然じゃなさがにじみ出ちゃってるなって違和感がないの?」


藤村 「……ないですね」


吉川 「ないのかよ。そのハートの強さなんなの? 何度否定されてもへこたれないじゃん。天然キャラよりもその強心臓を誇った方がいいよ」


藤村 「ありがとうございますっ!」


吉川 「だから褒めてねえっつーの!」



暗転

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