吉川 「鏡よ鏡よ鏡さん、世界で一番美しいのは誰?」


鏡  「え? 一番ですか? ちょっと急には無理です。雑な質問しないでください」


吉川 「なんかちょっとキレてる?」


鏡  「いや、キレてはないですけど、雑じゃないですか。一番って。せめてジャンルとか絞ってくれないと」


吉川 「ジャンル。だからそれは美しいって」


鏡  「広すぎて絞れてないです。じゃ、逆に聞きますけど。あなた一番好きな映画ってなんですか?」


吉川 「ロッキー3」


鏡  「意外と即答してきた。え? 迷わないんですか?」


吉川 「ロッキー3が一番好きだから」


鏡  「でもいきなり3? そもそもロッキー3が好きなのってロッキーありきのロッキー3好きじゃないですか」


吉川 「お前が一番って言ったんだろ?」


鏡  「だからそれ! 一番って言っても色々あるでしょ。ロッキーを見たことない人にロッキー3を『これが一番面白い映画だから』って薦められないじゃないですか」


吉川 「俺は薦めるけど」


鏡  「そんなことある? 続いてる話なのに」


吉川 「あとから逆算でロッキー見ればいいから」


鏡  「もうね、そういう神経含めて雑。きっちり最初から見て欲しい」


吉川 「でもワイルド・スピードシリーズだと7作目のワイルド・スピード SKY MISSIONが一番面白いけど、1から見ろっていうか? 1はそんなでもないぞ?」


鏡  「見てないんでなんとも言えないです」


吉川 「俺はワイルド・スピードシリーズは4作目のワイルド・スピード MAXからでいいと思うんだよ」


鏡  「だから見てないんだって。喩えが狭すぎて何も共感できない。そもそも何の話?」


吉川 「だからさ。一番美しい人もざっくりでいいんだよ。とりあえずで」


鏡  「えー。全然合わないわ。きっちりしたいもん。ざっくりと答えるの逆に難しいし」


吉川 「ざっくりこそ人の良さじゃない。大体でいいんだよなんでも。世界で一番美しい人という答えに対して正確に詰め寄ったりしないから」


鏡  「でもなぁ。ちゃんとしたいんですよ。自分の仕事に誇りを持ちたいというか。いい加減なこと言うとあとで気に病んじゃうタイプだから」


吉川 「ざっくりっていうのは別に間違いじゃないから。完璧な正解じゃないかもしれないけど、間違いとも言い切れない正解周辺のモヤモヤした部分がざっくりだから」


鏡  「お言葉ですけど、それはもう鏡じゃなくて飲み屋で話好きなおじさんとかに聞いたほうがいいんじゃないですかね? 鏡は割とそう言うのきっちりとやりたいタイプだから」


吉川 「でも話好きなおじさんと趣味が一緒かわからないし」


鏡  「趣味が合わなくてもざっくりなんだからいいでしょ」


吉川 「それは違う。ざっくりだからこそ、そのざっくりさ加減が合わないと破滅的なことになるから。その点鏡は合いそうな気がするんだよ」


鏡  「ワイルド・スピードシリーズ、一作も見てませんけど」


吉川 「それはあとから見て。MAXからでいいから。なんならMEGA MAXからでもいい」


鏡  「薦め方も雑。わかりました。お答えします。あなたの望む一番の人はこの人です!」


吉川 「誰それ。全然美しくない」


鏡  「ロッキー3が一番好きな話好きなおじさんです」



暗転

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