一休

将軍 「夜になるとこの屏風の虎が抜け出して困っておる。一休よ、この虎を捕らえてみよ!」


一休 「虎だけに!」


将軍 「え?」


一休 「虎と捕らえよときましたか。いやぁ、面白い! さすが将軍。冴えてますな」


将軍 「そういうことじゃないんだよ」


一休 「この一休、生まれてこの方ここまで面白い洒落を聞いたことはありません。笑い死にます。助けてー」


将軍 「言うほど笑ってなくない? なんなの? バカにしてるの?」


一休 「バカだけに! さすが将軍、ウィットに富んでますな」


将軍 「なんかムカつくなぁ、言い方が。そういうことを言えって言ってるわけじゃないんだよ」


一休 「違うんですか? じゃあ、どうしてそんなクソみたいにつまらないことを?」


将軍 「本心をチラ見せするなよ。クソだと思ってたんだな。一応こっちは将軍だから、言うなよそういうこと」


一休 「あ、はい。すんませーした」


将軍 「あのさ、屏風の虎。捕まえろって言ってるの」


一休 「はい?」


将軍 「だから、屏風の虎をな。捕まえろって言ってるんだよ?」


一休 「へ?」


将軍 「わかんだろ! 捕まえろよ、とっとと!」


一休 「なんて?」


将軍 「突発性難聴か! なんで急に聞こえなくなってるんだよ。ラノベでツンデレの子にデレられた主人公なの?」


一休 「聞こえてますよ。聞こえてても言ってる意味がちょっとわからなくて」


将軍 「わかるだろ。虎が、夜な夜な屏風から出てくるんだよ。それで困ってるから捕まえろって言ってるの」


一休 「……わかんないです」


将軍 「あのさ、わかれよ。そりゃ理屈でわからないって言われたら一番困るよ。だって言ってるこっちだってわかってないんだから。ただ立場的に偉いこの将軍が無茶を言ったという筋で考えろよ。お前は聞くしかないの。立場的に。これはパワハラなの。時代的にパワハラは許されてるから。していいの」


一休 「でも将軍は夜な夜な屏風から虎が出ると思いこんでるんですよね?」


将軍 「そうだよ。思いこんでるっていうか、もう出るから」


一休 「それでしたら相談するのは僧ではなく医者ですね」


将軍 「違うんだよ。お前じゃなきゃダメなの! 個人的にお前を困らせたいんだから。医者を困らせてもな~んも楽しくないの」


一休 「拙僧のこと好きなんすか?」


将軍 「なんでお前は真正面からそういうことを言うわけ? お互いの間の機微を読み取って本心を隠しつつも関係を築くってのが一番いいんじゃないの? 理屈でやり込めればいいと思ってるのよくないところだよ」


一休 「お言葉ですが、拙僧はあくまで善意で将軍の相談にのっているんです。別に権力を恐れて従ってるわけではありません。天涯孤独、死すら恐れておりません。そんな拙僧に将軍は何ができますか?」


将軍 「そんなんわかんないよ。将軍としてしか生きてないんだから。お前みたいにそんな自由に生きてないもん。我儘言って従わせるしか人間関係の構築の仕方を知らないんだよ! クソッ! いつもズバッと一番嫌なこと言いやがって!」


一休 「どうやら虎の尾を踏んだようですな」


将軍 「まだ屏風から出てないのに! これだから一休にはかなわん」


一休 「は? なんて?」


将軍 「ラノベの主人公かよ!」



暗転

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