賭け

吉川 「しまった。財布に3000円しかない!」


藤村 「本当? 俺、財布持ってきてないよ?」


吉川 「どうしよう。一応カゴの中のもの元に戻すか」


藤村 「早まるな! まだこのカゴに入れたものが3000円を超えてるかどうかわからないだろ」


吉川 「そうだけど、超えてたら足りないじゃん」


藤村 「それでも俺は一か八かに賭けたい!」


吉川 「賭けたい、じゃないよ。足りなかったらお店に迷惑かかるでしょ。戻さなきゃいけないんだから」


藤村 「まだ迷惑がかかると決まったわけじゃない。言ってみればシュレディンガーの迷惑だ」


吉川 「シュレディンガーさんもそんなことに名前出されたら確かに迷惑だよ」


藤村 「お前はいいのか? せっかくここまで集めたお宝をみすみす手放して」


吉川 「お宝ってコンビニの商品だからね。歩きながら気になったの入れてきただけだから」


藤村 「諦めるなよ! 挑戦は若者の特権だろ!」


吉川 「わかったよ。じゃあ足りてるか計算するから」


藤村 「バカな真似はやめろ! なんでそんな安定した道を選ぶんだ」


吉川 「だって迷惑がかかるから」


藤村 「なんでも計算計算で、それで何があるかわからない人生を生き残れると思ってるのか? 長い人生計算が狂うときがきっと来る。そんな時にお前はただ嘆くだけで一歩も動けなくなるんだぞ!」


吉川 「決めつけてくるなぁ。でもその時は今じゃないから今は計算するよ」


藤村 「吉と出るか凶と出るか、ヒリつくようなギリギリのせめぎあいをレジで味わえるというのに」


吉川 「味わいたくないもんそんな不安」


藤村 「最初は誰でもそうさ。全財産を失うんじゃないか、そんな不安を抱きながら上手くいった時の達成感は安定した人生では決して得られない快楽だぜ」


吉川 「ギャンブラーの思考なんだよ。その狂気に巻き込まないでくれ」


藤村 「何も俺はなんの保証もなくこんなことを言ってるわけじゃない。もし足りなかったらこのデンシ……」


吉川 「電子マネーあるの? なら話は別だよ」


藤村 「伝書バトーを飛ばして助けを求める!」


吉川 「財布持ってないのにハトは持ってるのかよ。なんだよバトーってちょっとマネーに寄せてるんじゃないよ」


藤村 「これで後顧の憂いなく挑戦できるってわけだ」


吉川 「全然憂いはあるよ。何も解消されてない。お前は要求だけしてくる割に何の貢献もしてない」


藤村 「ほう? そこまで言うか? そこまで言われて引き下がる男じゃないぞ。わかった。もし足りなかったら、俺が暴れてる間にお前は逃げていい」


吉川 「全然解決になってない。強盗だろ、それはもう。ただお金が足りないかもしれないってだけなのに」


藤村 「お前だけは絶対に逃してみせる。俺のことには構わず行け! 振り返るな」


吉川 「なんでそこまでして。わかった。お前の望む通りにするよ」


藤村 「わかってくれたか。はぁ、ドキドキするな」


吉川 「俺は帰らせてもらう。お前は頑張って挑戦してくれ」


藤村 「えー。だって俺、財布持ってないのに」


吉川 「じゃあな。お前には構わず振り返らないで去るぜ」


藤村 「ちょっとぉ……。せめて商品戻すの手伝ってよぉ」



暗転

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