プラッチック

藤村 「クッ……。はじまりやがった!」


吉川 「どうした?」


藤村 「悪いな、俺はここまでだ。さっきの相手に見られて身体が硬化し始めた」


吉川 「あのパーマの?」


藤村 「そう。髪の毛が蛇っぽいパーマの御婦人に。あれはきっとメデューサとかゴーゴンとかの親類の方に違いない」


吉川 「いや、あれはパーマだよ。蛇とかじゃない。パーマ」


藤村 「限りなくヘービーに近いパマー」


吉川 「限りなく透明に近いブルー、みたいに言ったか?」


藤村 「そうだ。そういう種類の視線だった。つい目があって会釈をしてしまった。見ろ、もう身体の末端から硬化し始めてる」


吉川 「見られると石化するのか。そんな特殊能力者だったとは」


藤村 「これは石じゃないな。プラスチックだ」


吉川 「プラスチックになるの? なんか安っぽいな」


藤村 「そうだ。そしてこのプラスチック化が全身に回って等身大のプラモになる」


吉川 「プラモってそういうもの? 動けなくなるとかじゃなくて?」


藤村 「動けはする。ただプラスチック製だ」


吉川 「動けるんだったら、まぁいいんじゃない?」


藤村 「いいわけないだろ! 他人事だと思って」


吉川 「確かにいいわけないけど。石化するわけじゃないんだから」


藤村 「アメリカ人に見つかってみろ。『これだから日本はプラスチックばっかりで環境をまるで考えてない!』って怒られるぞ」


吉川 「なんでアメリカ人限定でビビってるんだよ。いいじゃんそんなの」


藤村 「自分の国の二酸化炭素排出量を調べもしないで、ただ見た目だけで日本はプラスチックまみれだと糾弾されるんだぞ?」


吉川 「強めの批判をするな。なにかあったのか、アメリカ人と」


藤村 「自分の国に一つもいいところがないくせにただ敗北を認めたくないという思いだけで、バカでも見てわかるプラスチックを槍玉に挙げるアメリカ人に文句を言われたくないだろ?」


吉川 「すごい反米思想だな。戦時中か? そんなアメリカ人ばかりでもないだろ」


藤村 「銃を片手に『ファッキン・プラスチーック!』とか言ってくるんだぞ? こんなプラスチックになった手を見られたらなんて言われることか」


吉川 「偏見! 完全にいきすぎた偏見! たとえなにか嫌な因縁があったとしても、そこまで思い込むのはお前が悪いよ。冷静になって。一番の問題はそこじゃないだろ? アメリカ人に言われることなの? もっと根本的に困ることあるだろ」


藤村 「それ以外は特にないが?」


吉川 「アメリカのみ? フォーカスの仕方が偏りすぎ」


藤村 「もちろんヨーロッパのバカも言ってくる」


吉川 「わかった。もうそれ以上ほじくらないほうが良さそうだ」


藤村 「このまま手がプラスチックになったらじゃんけんにプラスチックという新たなフォームで参戦することになる」


吉川 「ややこしいな。何に勝って何に負けるんだプラスチックは」


藤村 「接着剤に負けてヤスリにも負ける。パテとあいこ」


吉川 「さらに知らないフォームも出てきた。戦績も悪い」


藤村 「世界中で嫌われてるからなプラスチックは。特に意識が高いがそれ意外の能力がことごとく低いバカどもに」


吉川 「わかった。もう言うな。何も言うな。発言がいちいち攻撃的すぎる。なんか治す方法はないの?」


藤村 「かつて伝説では人魚の肉は万病に効くと言われていた。この世界に人魚がいるとは思えないが似たような生物ならもしかしたら」


吉川 「似たような生物?」


藤村 「海で泳ぐ哺乳類。たとえばクジラやイルカ……」


吉川 「反撃することしか考えてない思想!」



暗転

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