脱出

吉川 「おやおや! こんなところになにか描いてあるカードがあるぞ」


藤村 「つまりこれに描いてある謎を解けば脱出に一歩近づくということか」


吉川 「そういうことだろうな。なになに? 『本棚に○○がある』ここで柿の絵に点々がついてるな」


藤村 「わかった! 本棚に本があるってことだ!」


吉川 「なんで?」


藤村 「なんでって。本棚だから」


吉川 「いや、違くてよ。脱出ゲームなんだから。これは謎なんだから」


藤村 「本棚に……。辞書?」


吉川 「連想ゲームじゃないんだよ。この絵! 絵を見て! かなり初歩のやつだから、これ」


藤村 「柿? に点々。つまり……。本?」


吉川 「なんで? なんで?」


藤村 「二回言った」


吉川 「二回言うよ、二回目だもん。柿に点々」


藤村 「ちょっとわからないな」


吉川 「ちょっとも? ちょっとはわからない? この謎の段階でちょっとすら無理?」


藤村 「柿あんまり好きじゃないから」


吉川 「好みの問題じゃないんだよ。それは考慮しなくていい」


藤村 「柿のことあんまり知らないんだよね。なんで渋いのがあるのかもよくわからない」


吉川 「この際、柿のことは知らなくていいよ。柿という言葉だけわかってれば」


藤村 「そうなの?」


吉川 「柿に点々つけたらなんになる?」


藤村 「それは農薬みたいな?」


吉川 「違う! 概念として。実物の柿じゃなくて、概念としての柿に概念としての点々をつけて」


藤村 「すごい難しいこと言うな」


吉川 「いーや! 難しいこと言ってない。概念が難しかったか? そうじゃなくてカキという名前。文字に、点々をつけて」


藤村 「……カキ?」


吉川 「点々そこじゃない。そんな重い表情で『……』を表現しなくていいよ」


藤村 「ひょっとして点々って、濁点のこと?」


吉川 「そう! そしてその点々は柿の絵の下の方についてる。つまり?」


藤村 「つまり? いや、まだつまってないけど」


吉川 「もうつまってるだろ。問題文よく見て。『本棚に○○がある』これに濁点を付けて?」


藤村 「ボン?」


吉川 「本棚にボンがある! ボンてなに!?」


藤村 「俺もよくわからない」


吉川 「だよね。よくわからないものはないよ。本じゃないんだよ。そこから離れよう。本棚にあるのは本じゃなくて?」


藤村 「ダナ?」


吉川 「ダナでもないよ! なんだよダナって。本棚にダナがあるって意味もわからない」


藤村 「こう、エッシャーのだまし絵みたいに、本棚の中にさらに棚があって」


吉川 「複雑な思考をしすぎだよ。これはもう初歩だから。初歩の初歩。普通に濁点をつければいいだけ」


藤村 「ショボ?」


吉川 「別に初歩に濁点つけろって言ってるんじゃないんだよ。悪かった。言い方悪かったな。重要なのがこの絵。柿。これがもうすごく重要」


藤村 「でも本棚に柿はないよな」


吉川 「そうなんだよ。いいよ、その思考はいいよ。発展させよう。柿はないけど、なにかがある。そこでこの濁点」


藤村 「わかった。本棚にあるのは」


吉川 「うん。それだ!」


藤村 「柿゛」


吉川 「なにそれ!」



暗転

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