古民家

藤村 「こちらは古民家を再生した物件でして、最近大変話題になってますね」


吉川 「あー、すごくいいですね」


藤村 「リフォームは全て済んでおりまして、住心地はとてもいいと思います」


吉川 「ガスとか水道は?」


藤村 「はい。電気、ガス、水道などのインフラもきちんと完備しておりますし、ネットも光回線が来ております。ただ交通の便から言うとやはり車は必要かもしれません」


吉川 「あー、やっぱりそうなんですね」


藤村 「こちらの土間の部分なんですが、こうして開放するとちょっとしたカフェスペースにもなりますので、ご友人の方たちと楽しむなんてのもいいかも知れません」


吉川 「いいですねー」


藤村 「そして庭の方になりますが、こちらになります」


吉川 「あ、広い! うわっ! なんかでかい虫!」


藤村 「そうですね。やはり田舎の古民家なので虫などの自然には溢れております。お客様は東京の方でしたっけ?」


吉川 「はい」


藤村 「コンクリート・ジャングルの出身ですと、虫や猛獣に出会う機会も少ないでしょうしね」


吉川 「猛獣いるの? この辺?」


藤村 「ま、古民家ですから。ある程度は。でも東京でも女豹とかがいるんじゃないですか? ガールズバーとかに」


吉川 「いや、女豹って。行かないから知りませんけど、そういう女豹とは違うでしょ」


藤村 「こちらの自然の方もあまり変わらないと思いますよ。刺されたら即死する虫はいますけど、でも都会でも隕石落ちてきたら即死しますから」


吉川 「隕石落ちてこないよ、そんな頻繁に。田舎の虫の頻度と比べるなよ」


藤村 「でも庭は広々としてますし、ご友人を集めてバーベキューなんかもできますね」


吉川 「あの、あそこにある冷蔵庫みたいのはなんですか?」


藤村 「あれは不法投棄ですね。古民家なんで」


吉川 「いや、不法投棄されてるのダメでしょ。古民家だからやむ無しみたいな理屈じゃ通らないですよ」


藤村 「でもこのあたりの人は法とかを気にしないおおらかな方が多いのでよくあることですけど」


吉川 「法は気にしろよ。おおらかとかそう言うので納得できることじゃないよ」


藤村 「結構都会の方から来られた方は神経質になられるんですが、しばらく住めば慣れてきますよ」


吉川 「慣れたくないよ、そんな原始人みたいの。え? 今、家の中に誰かがいた気が」


藤村 「あれは忍者ですね。古民家なんで」


吉川 「なんで? なんで忍者が出るの?」


藤村 「古民家なんで」


吉川 「でないだろ古民家だからって。忍者が住み着いてるの? 勝手に?」


藤村 「古民家には大体いますね」


吉川 「そんな話聞いたことないけど?」


藤村 「あ、そうですか? でもすぐ慣れますよ」


吉川 「慣らそうとするなよ。無法地帯に。これ、壁を取り払って広いスペースとして使うとかもできるの?」


藤村 「できますけど、壁を壊すと死体とか出てきちゃうかも知れませんね。古民家なんで」


吉川 「完全にアウトだろ。死体を壁に塗り込めるなよ。横溝正史か」


藤村 「その辺りはもう古民家なんで仕方ない部分ではありますけど」


吉川 「なんで古民家なら情状酌量の余地あり、みたいな感じになってるの? 死体はどの地域もどの時代もダメだよ」


藤村 「でも逆に考えると、もしうっかり死体が出た時でも適切に処理ができるということでもありますが?」


吉川 「でないよ! なんで人死が生活のマージンとして予測されてるんだよ。殺すわけないだろ!」


藤村 「殺しますよー。古民家なんで」


吉川 「地獄なの、ここ?」



暗転

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る