学会

藤村 「この分野は素人なので大変恐縮な質問なのですが」


吉川 「は、はい。なんでしょう?」


藤村 「そちらの左上に書いてある文字はなんですか?」


吉川 「え? これですか? 『研究』ですけど……。なにか、問題がありましたでしょうか?」


藤村 「『研究』それはどういう意味でしょうか」


吉川 「え、え……。いや、その。それほど深い意味を考えずに書いてしまったのですが、まずかったでしょうか?」


藤村 「どういう意図か、ではなくどういう意味なのかを尋ねているのですが?」


吉川 「は、はい。すみません。研究というのは、ある事象に対して、考察をして実験をし、観察をして結論をまとめることだと考えてます」


藤村 「そうですか。わかりました」


吉川 「……失礼ですが、今の質問は一体どういう意図があったのでしょうか?」


藤村 「難しい言葉がでてきたのでよくわからなくて」


吉川 「素でわからなかったの!? 『研究』が? ただわからないってだけ?」


藤村 「この分野は素人なので」


吉川 「いや、それはあれじゃないですか。すごい人が謙譲で言う枕詞で、本当は何もかもわかってる存在が言って、こっちがビビるってやつじゃないんですか?」


藤村 「そうなんですか? すみません、素人で」


吉川 「あ、なんだ。素人だったんだ。なんで素人がこんな専門的な学会に来てるのかわからないけど」


藤村 「あとこの分野は素人なので大変恐縮なのですが、これって何時に終わるんですかね?」


吉川 「本当に恐縮してる? 素人だとしても発表と関連してるようなことを聞いて欲しいよ。退屈させてるのは悪いけど、それはお互い様だからね」


藤村 「そうですか。あとこの分野は素人なので大変恐縮なのですが、帰りの駅までのルートで一番いいのってどれですかね?」


吉川 「知らないよ! 俺もこの会場に来たの初めてだもん。駅までのルートに関しては素人だよ。むしろ駅までのルートの専門家だと思って聞いてたの?」


藤村 「わかりました。あとこの分野は素人なので大変恐縮なのですが、この近くで雰囲気のいいカフェとかありませんか?」


吉川 「Siriじゃないんだからさ。この質疑応答の時間で終わった後の予定を検討するのやめてくれる?」


藤村 「では私が玄人の分野の質問なのですが、トルクチューン2モーターPROでギア比が大きいセッティングとプラズマダッシュモーターでギア比小さめのセッティングだとどちらが好みですか?」


吉川 「何の分野の話だよ!?」


藤村 「ミニ四駆なんですが」


吉川 「ミニ四駆の玄人が、俺の学会発表で自分の質問をしないでくれる? もうあなたの質問は受け付けません! 他の方! 他に質問のある方はいますか?」


笹崎 「はい。先程の質問に補足なんですが……」


吉川 「先程の質問? どの質問ですか?」


笹崎 「ええと、プラズマダッシュモーターは公式戦では使用できないので、その辺りを注意したセッティングにするべきだと想います」


吉川 「これにて質疑応答の時間を終わります!」



暗転

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