パラドックス

藤村 「えらいことになってしまった……っ!」


吉川 「どうした、深刻な顔で」


藤村 「もう財布の中にお金ないな、降ろさないとと思って見たらまだ4000円あったんだ」


吉川 「……で? それのどこがえらいことなの? よかったじゃん」


藤村 「いや、これは恐らくタイムパラドックスの影響だ」


吉川 「タイムパラドックス。そんなことに思い当たるフシがある人間すごいな」


藤村 「実は、明後日発売のマンガをフライングゲットしてしまったんだ! それにより本来読めるはずのない時代にマンガを読んでしまい、時空の法則が乱れて様々なところに影響を与えてるに違いない!」


吉川 「引き起こしちゃったのか。タイムパラドックスを。マンガで。それは大変だな。でもその理屈だとタイムパラドックスは結構頻繁に起こってることにならない? 俺だってフラゲしたことくらいあるよ」


藤村 「あー、それ! その言い方! おかしい。普段の吉川なら絶対そんなことを言わない。俺のタイムパラドックスに対する危機感をうやむやにするために改変されたんだ」


吉川 「言うよ。普段からこんな感じだよ」


藤村 「いいや! 絶対違うね。普段の吉川なら俺が財布に4000円の話をした時点で『その金をよこせー!』と襲いかかってくるはず」


吉川 「俺ってそんな世紀末を生きてるやつだった? お前の中の俺のイメージどうなってるの?」


藤村 「おかしい。もう全てがおかしい。この世の理が変わってることに気づいてるのは俺だけなんだ」


吉川 「それはもう強迫性のなにかじゃない? まず病院に行った方がいい」


藤村 「一昨日、半分だけあとに取っておこうと思ったアイスもなくなってた!」


吉川 「食べたんだろ、お風呂上がりとかに。よくあることだよ」


藤村 「あっ! 確かに! お風呂上がりに食べた気がする。しかし、今の今までそんな記憶はなかったはずだ。たった今過去が塗り替えられたんだ! タイムパラドックスのせいで!」


吉川 「忘れてただけだろ。なんでもタイムパラドックスのせいにするなよ」


藤村 「あと、家出る時鍵ちゃんとかけたか不安になってきた!」


吉川 「もうそれは全然タイム関係ないね。せめてもうちょっとタイム寄りの不安をいだいてくれよ」


藤村 「あとタイムパラドックスが起きてる今ならマッチングアプリで上手くいかなかったあの子との中も修復できてるかもしれん」


吉川 「タイムパラドックスをポジティブに利用するなよ。そんな都合いいもんじゃないだろ」


藤村 「過去が大幅に変更されたとしたら、尿酸値も下がってる可能性あるな。食べ放題だ!」


吉川 「すべてのパラドックスがお前本位で起こってると思うなよ?」


藤村 「なんでお前はそんなにタイムパラドックスに詳しいんだよ!」


吉川 「別に詳しくないけど間違ってることくらいわかるだろ。常識的に」


藤村 「さてはお前! 時空の法則を修正しに来たタイムパトロールが吉川に変装してるんじゃないだろうな?」


吉川 「……っ!?」


藤村 「その怪しい挙動! やっぱり!」


吉川 「ゲハハハ! 財布の4000円を寄越せー!」


藤村 「あ、なぁんだ。普段の吉川か」



暗転

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