見えない

藤村 「こちらはバカにしか見えないマグカップです」


吉川 「なるほど。あるのね? そこに」


藤村 「はい。あります。バカにしか見えないマグカップが」


吉川 「他にはないのかな?」


藤村 「ありますよ? こちらがバカにしか見えない天球儀です」


吉川 「天球儀。あるんだね? ここに」


藤村 「はい。あります。ただバカって天球儀を見てもよくわからいと思うのであんまり意味がないんですよね」


吉川 「確かに。フォルムとしては格好いいんだけどね」


藤村 「あとこちらがバカにしか見えないドライフラワーです」


吉川 「ドライフラワーも。そこにあるんだ?」


藤村 「ありますよ」


吉川 「へー、この辺?」


藤村 「あーっと! 気をつけてください。壊れやすいんで」


吉川 「あ、ごめんね。せっかく持ってきてくれたのに悪いけど、実は見えてないんだよね」


藤村 「あぁ、そうだったんですか。見えてないんですね。でしたらお客様にはこっちですね。これはバカには見えないやつなんですけど……」


吉川 「あ、そっちもあるの?」


藤村 「はい。これがバカには見えないオロフッチョスです」


吉川 「なんて?」


藤村 「バカには見えないオロフッチョスです。オロフッチョスの中でも上位5%に入る高級な素材を使ったもので一般的なオロフッチョスよりも輝きが違いますね」


吉川 「あー」


藤村 「どうです? こっちの角度から見るとかなりオロフッチョスの独特なフォルムが強調されると思うんですが」


吉川 「……されるね。たしかに」


藤村 「どうです?」


吉川 「どうって? まぁ、いわゆるオロフッチョスだよね」


藤村 「はい。オロフッチョスはお嫌いでしたか?」


吉川 「いや、嫌いではないよ? ただ好きってほどでもないかなぁ」


藤村 「またまたぁ! オロフッチョスは好き嫌いかどっちかしかありえないじゃないですか」


吉川 「そっか。オロフッチョスだもんね。好き寄りではあるよね」


藤村 「あー、こっちの角度からだとちょっとバカにも見えちゃうかも知れないですね」


吉川 「え? どっち? ここから? オロフッチョスが見える?」


藤村 「ダメですよ。多分バカにも見えちゃう可能性があるんで。やめといた方がいいです」


吉川 「こっち? この辺?」


藤村 「いや、そんな角度からわざわざ見ないでも。オロフッチョスが台無しになっちゃいますよ」


吉川 「ん~、でもせっかくバカに見えないオロフッチョスなのにバカに見えちゃうのは困るからその角度に関してはちゃんと把握しておかないとまずいし」


藤村 「でもバカはそういう細かい事、気にしないから平気だと思いますよ」


吉川 「まぁそうかもしれないけど。バカには見えないオロフッチョスは欲しかったんだけど、ちょっとでもバカに見える可能性があるとなると、困っちゃうから」


藤村 「あ、すみません。バカには見えないオロフッチョス、今日持ってきてなかったみたいです。そこ、何もないですわ。すみません、なにぶん私バカなもので見えないんですよ」


吉川 「知ってたよ? ないなーとは思ってたし。オロフッチョスは」


藤村 「あと、オロフッチョスって何ですか?」


吉川 「……お前、性格悪いって言われない?」



暗転

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