あっちむいてホイ

藤村 「ジャンケンポン」


吉川 「あっちむいてホイ!」


藤村 「ブフッ! ちょっと待てよ。古いよ! 古すぎる。ウケる!」


吉川 「……なにが?」


藤村 「なにがって。昭和かよ! まさか今どきこの手が来るとは」


吉川 「え? あっちむいてホイでしょ?」


藤村 「そうだよ。まさにあっちむいてホイだよ。でもチョキから上って。40年くらい前に流行った定石じゃん! ゴー・トゥー・ヘブンでしょ?」


吉川 「は? なに言ってんの?」


藤村 「だから、チョキから上。古いんだよ。ひっさしぶりに見たわ、それ。逆に今ありなのかな」


吉川 「あっちむいてホイに定石があるの?」


藤村 「いや、あるだろ。なに当たり前のこと言ってるんだよ。ある程度はみんな知ってるだろ」


吉川 「え? 知らないけど」


藤村 「じゃ、なんでそんなやつがゴー・トゥー・ヘブン出せるんだよ。はいはい、もうわかったから次。ジャンケンポン」


吉川 「あっちむいてホイ!」


藤村 「ほら~! もう定番じゃん。島本流シャチホコ崩しでしょ」


吉川 「なにそれ? 今の俺の手?」


藤村 「グーで勝って左は島本流シャチホコ崩ししかないでしょ。世界選手権3連覇の島本選手の」


吉川 「世界選手権があるの? あっちむいてホイに?」


藤村 「それはあるだろ。なんにだって。そこ驚くところ? バスケだってラグビーだってなんだってあるじゃん。器械体操に世界選手権あるんですか!? って驚くやついる? ふざけてんの?」


吉川 「え。でもあっちむいてホイにあるとは思わなかった」


藤村 「なんでだよ! なんであっちむいてホイだけ世界選手権がないと思ったの? そんな特別な競技か?」


吉川 「特別っていうか、バスケとかと同列の競技だって思ってなかったから」


藤村 「競技人口だったら遥かに上だろうが。小さい子もおばあちゃんもやってるぞ? バスケやるか? 80超えて」


吉川 「そう言われればそうだけど。その、定石とか覚えるくらいまでのレベルでやってる人ってそんなにいるの?」


藤村 「なにそれ? 自分はあんまり知らないっていう体で油断させようとしてる?」


吉川 「あぁ、そうなんだ。俺が逆に変なのか。ちょっとカルチャーショックだな」


藤村 「面白いやつだなぁ。いくぞ。ジャンケンポン」


吉川 「あっちむいてホイ!」


藤村 「いい加減にしろよ! なんだよそれ! そんなのないだろ」


吉川 「ない? なにが?」


藤村 「グーで勝って下なんて、ないだろうが」


吉川 「ないってどういうこと?」


藤村 「そんな技ないんだよ。グーで勝ったら普通は右、それに対抗するために上や左が派生してるけど、下ってのはありえないだろ」


吉川 「ありえないの?」


藤村 「今まで一回も見たことないよ」


吉川 「それほど? そんなことないでしょ。こんなのランダムなんだからどこかで誰かがやってるでしょ」


藤村 「そんなわけないよ。普通下には出せない。だってさおかしいじゃん。……いや、待てよ?」


吉川 「なにが」


藤村 「逆で……、逆で……、となるとアリなのか? グーで下。おい、それわかっててやったの?」


吉川 「わかってて? もう何一つわからないんだけど」


藤村 「ちょっとこれはあっちむいてホイ界を騒がすことになる一手だぞ。待て待て。ありうるのか? グーで……、なるほど。……出せるな」


吉川 「それほどの手? 長いあっちむいてホイの歴史の中で誰も気づかなかったの?」


藤村 「死角だったな。グーからの発展は出尽くしたと思われてたから」


吉川 「浅くない? 語り口の割にあっちむいてホイの掘り下げ方浅すぎない?」


藤村 「そこまで言うか。ただこの手を生み出したからには、そこまでいう権利はあるか。吉川さん、お見逸れしました」


吉川 「全然そこまでじゃないよ。やめてくれよ」


藤村 「はっきり言って俺は今震えてるよ。新しい時代の才能に巡り合って」


吉川 「ないよ、才能。むしろ今まであっちむいてホイの研鑽を重ねてきた人の方が心配だよ」


藤村 「ジャンケンポン!」


吉川 「あっちむいてホイ!」


藤村 「出ましたー! 神の一手! まさか! ここでこんな手を思いつくとは!」


吉川 「もういいよ。違うので決めよう」



暗転

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る