潤滑剤

吉川 「特にここは自分の強みだという自己アピールはありますか?」


藤村 「はい。潤滑剤として自信を持っており、周りのものからもよく褒められます」


吉川 「そうですか。人間関係の」


藤村 「はい。人間と私とで」


吉川 「人間関係の潤滑剤ということですよね? 確かにうちの会社も組織が大きくなってきてやや風通しが悪くなってきてる部分もあります。そのあたりは活躍が期待できるということでしょうか?」


藤村 「いえ、関係ではなく。物理的なものです」


吉川 「どういうことですか? 物理的な潤滑剤?」


藤村 「はい。ヌルヌルになりますね」


吉川 「ヌルヌルに? 喩えとしてですよね」


藤村 「いえ。ヌルヌルになった私が密着することによって、だいぶ気持ちいいそうです」


吉川 「何の話?」


藤村 「潤滑剤です」


吉川 「潤滑剤はいいんだよ。それはあくまで人間関係の軋轢を軽減する人柄ということの表現でしょう?」


藤村 「ヌルヌルになります」


吉川 「具体的にヌルヌルになるやつは嫌だよ。精神的なものであれよ」


藤村 「でもそうとう気持ちいいですよ?」


吉川 「気持ちよさの問題を話してるわけじゃない。仕事なんだから」


藤村 「テクがあります」


吉川 「テクは聞いてないんだよ。聞きたくもないんだよ。ヌルヌルのテクは!」


藤村 「ではなんのテクなら良いのでしょうか?」


吉川 「なんのテクって話でもないんだよ。仕事として役に立つか。我が社の業務に必要かどうかが問題なんだから」


藤村 「でも私のヌルヌルをご存知ないでしょ?」


吉川 「存じててもOKってならないよ、ヌルヌルに関しては。どれほど高度なレベルであってもヌルヌルで評価される仕事はうちにないから」


藤村 「それは本当のヌルヌルをご存知ないからでは?」


吉川 「山岡士郎みたいなこと言い出したな」


藤村 「来週のこの時間、またこの場所に来てください。本物のヌルヌルを味わわせてあげますよ」


吉川 「のるなよ! ヌルヌルさせてくる山岡さん最悪だろ」


藤村 「今年もよろしく、ヌルしんぼ!」


吉川 「ヌルしんぼはこの世のあらゆる○○しんぼの中で一番ひどいやつだよ」


藤村 「しかし千里の道もヌッルからと言いますし」


吉川 「絶対に言わないよ。特に『ヌッル』が言わない。人間の発音では『ヌッル』はなんか上手く言えないだろ。なんでかわからんけど」


藤村 「そうですか。そこまで言われるのでしたらもう結構です。どうぞパサパサの人材でも集めてください」


吉川 「いや、別にパサパサを求めてるからヌルヌルがダメってことではないよ?」


藤村 「ではベタベタですか。要するに御社はベタベタの人間関係により閉鎖的な環境なんですね」


吉川 「すごい不公平感のある嫌な組織を想像してる? そもそも人事を質感で選んでないんだよ。ヌルヌルが入ってきても環境は変わらないだろうが」


藤村 「そこはテクで」


吉川 「ヌルヌルのテクでなんでも解決できると思うなよ? 人間関係は複雑なんだから」


藤村 「ただのヌルヌルじゃありませんよ。私はあらゆるヌルを極めし存在」


吉川 「ヌルヌルのヌル度を評価する制度が世界中どこにも備わってないのよ」


藤村 「そんな環境をぬるま湯にしますよ」


吉川 「組織に最も向いてない人材だ」



暗転

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る