昔ながら

吉川 「こちらは今も変わらず昔ながらのやり方でお味噌を作っておられる蔵なんですね」


藤村 「はい。私どもは伝統を重んじ昔ながらのやり方でやっております。それだけに大量生産はできませんし値段も一般のお味噌よりは高くなってしまいます。それでも私どもの味噌が欲しいと言ってくれる方がおりますので手を抜かずにやっております」


吉川 「なるほど。こちらの蔵にも秘密があるそうですが?」


藤村 「はい。長いこと味噌を作ってきたので、その菌がですね、柱や天井に住んでおります。なのでより深い醸しができるというわけです」


吉川 「さすが昔ながらのやり方ならではの良さがあるんですね。こちらの大きな樽は?」


藤村 「この木の樽はもう100年使っております。一般的に流通している大手の企業ですと、金属製の温度管理などができるタイプを使われてるそうですが、これは私どもが常に目を離さずに管理しなければなりません。なにぶん昔ながらのやり方で時代遅れではあるのですけど、先代の先代のさらに前から受け継がれており、この樽でなければ私どもの味噌というのはできませんね」


吉川 「はぁ~、そうなんですね。こちらの革のひもは?」


藤村 「これは奴隷をしばくための鞭ですね。なにぶん昔ながらのやり方しかできないので」


吉川 「え、鞭? 奴隷って?」


藤村 「昔ながらの奴隷です。私どもが使役してる人権のない存在。古くはピラミッドなども建設したやつらです。やはり昔ながらの奴隷でないと私どもも楽ができないので」


吉川 「そ、それはダメなんじゃないですか?」


藤村 「そうですね。大量生産のオートメーションで作られた味気ない安い味噌では使われてません。ですが人の手の温かみはこういうところからしか出ません。殆どの方は大手のお味噌でかまわないかもしれませんが、どうしてもと私どもの昔ながらの味噌を選んでくれる目の肥えた方もいらっしゃいますので」


吉川 「えー。奴隷を、叩くの?」


藤村 「はい。昔ながらの暴力で生かさず殺さず。最近は暴力でいうこと聞かせるのは時代遅れなんて言われるんですが、やっぱり他には変えられない良さというのがあるんですよね」


吉川 「いや、ないでしょ。良さは。ダメでしょ」


藤村 「だからと言って味噌づくりに関わる者すべてに報酬を支払っていると私どもがキャバクラにも行けなくなるわけです。そうなると味噌を作るモチベーションも低下します。いうなれば良い味噌を作るために必要な犠牲というわけです」


吉川 「カンブリア宮殿みたいな顔して答えてるな。クソみたいな内容を」


藤村 「確かに時代の変化というのは否定できません。だからと言ってすべてを変えてしまっていいのか、きちんと考えなければならないと思います」


吉川 「考えるまでもなく悪いことってあるでしょ。なに言ってるの?」


藤村 「そうですか。私どもの昔ながらのやり方をご理解いただけないようで」


吉川 「それはいただけないよ。誰かまともなやついなかったのかよ」


藤村 「そういった方にもですね、私どもは昔ながらのやり方で手間を掛けて口をふさいでまいりました」


吉川 「え、なに。怖い」


藤村 「最近の若い方はご存知ないかもしれませんが、人類というのは古くから対立する相手は暴力で排除してきました。私どもは昔ながらのやり方でやらせてもらってますので」


吉川 「け、警察呼ぶぞ!」


藤村 「ここは昔ながらのやり方でやっているので電波入らないんですよ……」



暗転

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