オオカミ少年

藤村 「これが本当なんだって!」


吉川 「はいはい。わかったよ。またいつものやつでしょ?」


藤村 「なんだよ、いつものやつって。よくそのチル状態で聞いてられるな。もっと驚くだろ」


吉川 「だってどうせ嘘だもん」


藤村 「なにそれ! どうせ嘘ってどういうこと!?」


吉川 「前もそう言ってたよね。でも結局なかったじゃん。そんなんだからオオカミ少年って言われるんだよ」


藤村 「は? この俺がオオカミ少年?」


吉川 「そうだよ。みんな言ってるよ」


藤村 「参ったなぁ。やっぱり孤高さがあるからか。醸し出ちゃってるよなぁ、クールさが」


吉川 「褒め言葉じゃないぞ。嘘つきってことだからな」


藤村 「でもオオカミ少年って呼んでるんでしょ? それは嘘つきとは違くない? 嘘つきだと思ったら嘘つきって言うよ」


吉川 「だから嘘ばかりついて何を言っても信じられない存在という現状も含めてのオオカミ少年なんだよ」


藤村 「ニヒルでクールな夢想家というわけか」


吉川 「オオカミ少年をそんなにいいイメージで捉えてるの?」


藤村 「狼の少年だぞ? 対するお前は何だ? ナマケモノ中年か?」


吉川 「最悪な二つ名をつけるな。ひどすぎるだろ」


藤村 「確かにイメージで決めつけるのは良くないな。ナマケモノだって名前はアレだけど立派なやつもいるだろう。地球温暖化を憂いてなるべく体温をあげないように心配ってるやつとか」


吉川 「個人でそんな大きなテーマ背負ってるナマケモノいるかね」


藤村 「俺はオオカミ少年と呼ばれてるだけさ」


吉川 「語尾に『さ』なんてつけやがって! 全然いいイメージじゃないからな、オオカミ少年は」


藤村 「今夜も遠吠えがよく響くぜ」


吉川 「それ、格好いいか?」


藤村 「毛づくろいが面倒だぜ」


吉川 「ちょっと狼のイメージが貧困だな。あんまり知らないんじゃない?」


藤村 「油揚げもキライじゃないぜ」


吉川 「それは狐だからな。なんでもいいのか?」


藤村 「ライオンの食べ残しがはありがたいぜ」


吉川 「ハイエナだよそれ。全然生息環境が違うだろ。見た目が似てるのはみんな狼だと思ってる?」


藤村 「いつもはクールな俺だけど、満月を見ると大猿になっちまうぜ」


吉川 「サイヤ人だろ。せめて狼牙風風拳のヤムチャでいろよ」


藤村 「シベリアンハスキーに似てるぜ」


吉川 「逆だろ。シベリアンハスキーが狼に似てるんだ。知らないんだろ、狼のこと」


藤村 「バカ言うな。すごくよく知ってるよ。特に狼のことには詳しいから」


吉川 「まあいいよ。お前のその手の話は聞き飽きた」


藤村 「これが本当なんだって!」


吉川 「はいはい。わかったよ。またいつものやつでしょ?」



暗転

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る