断捨離

藤村 「祭りはだんじり、紅茶はダージリン、ウルトラマンは団時朗、断捨離アドバイザーのコズミック藤村です」


吉川 「よろしくお願いします。コ? コズミック藤村さん?」


藤村 「コズミック藤村です」


吉川 「格好いい名前ですね」


藤村 「小さい頃のあだ名からきてるんです」


吉川 「へぇ、コズミックって?」


藤村 「あの頃はゴミクズって呼ばれてました」


吉川 「それはいじめれてたんじゃないの?」


藤村 「まぁ、今もゴミクズに係わる仕事をしてるんで天職なんですかね」


吉川 「断捨離のことゴミクズって言わないでよ」


藤村 「さて、断捨離と言ってもあなたのものを私が勝手に捨てることはできません。なのでアドバイスをしていきます。まずそれを手にとって見てときめくかどうかが大事です。とりあえず目につくもので一番大きな、このベッドはときめきますか?」


吉川 「え? ベッド? いや、別にベッドはときめかないですけど」


藤村 「じゃ、捨てましょう」


吉川 「捨てるんですか? そしたらどこで寝れば?」


藤村 「……では次にこの洗濯機」


吉川 「え、なに? 答えてくれないの?」


藤村 「洗濯機、ときめきますか?」


吉川 「いえ、特にときめきはしないですけど必要ですから」


藤村 「なら捨てましょう」


吉川 「必要なんですよ? 捨てて、洗濯はどうすればいいんですか?」


藤村 「吉川さん、断捨離っていうのはそういうものなんですよ。思い浮かべてください。天国には、ベッドも洗濯機もないんです」


吉川 「でも天国には柔らかい雲のベッドみたいのあるじゃないですか」


藤村 「雲のベッドはときめきますか?」


吉川 「確かにそれならときめくかもしれないけど」


藤村 「だったらそれにしましょう」


吉川 「ないもの! この世には! 雲のベッドは」


藤村 「では他にときめかなそうなもの。このなんか薄汚れたトロフィーはときめきますか?」


吉川 「それは学生時代に部活で全国大会に行ったときのやつ! ときめくよ!」


藤村 「こんなのが?」


吉川 「おい! お前の予断がメチャクチャ入ってるじゃねえか。勝手に人のものを」


藤村 「じゃ、なんかこの汚い服。心なしか臭い。ちょっと引くくらいダサい服はときめきますか?」


吉川 「これはメッシのサインの入ったユニフォーム! ときめかないやつがいるかよ!」


藤村 「こんなのどこに着ていくんですか?」


吉川 「着てかないよ! そういう用途じゃない。あるだけでときめくんだよ」


藤村 「そこまで言うならいいですけどね。じゃ、このドアはときめきますか?」


吉川 「ドアは共有部分でしょうが。このアパートの。ときめくとかの問題じゃない」


藤村 「捨てましょう」


吉川 「俺が捨てていい判断をしていいやつじゃないんだよ。捨ててどうするんだ、ドアを」


藤村 「ではこの幸運を呼ぶ天使様人形はときめきますか?」


吉川 「なにそれ? そんなのうちにあった?」


藤村 「ありますね。どう見てもここに。天使様ですからこれはときめきますね。間違いなく」


吉川 「いや、知らない。怖い。なんか顔も気持ち悪いし」


藤村 「でも天使様ですよ?」


吉川 「なに、天使様って。有名なキャラなの? どこにあったそれ」


藤村 「どこにあったとかではなく、ときめくかときめかないかが重要なんです」


吉川 「ときめかないよ。見覚えないし」


藤村 「この缶ビールの空き缶よりはときめくんじゃないですか?」


吉川 「それはゴミだからハナからときめかないよ。捨てる予定のものだもん」


藤村 「これよりときめくってことはとっておいた方がいいですね。ここにおいておきましょう」


吉川 「おい、勝手に置くなよ。それうちのか? お前が勝手に置いたんじゃないのか?」


藤村 「吉川さん、大切なのはときめくかときめかないかなんです」


吉川 「もうその基準はどうでもいいよ。勝手に物を増やすなよ。持って帰れ!」


藤村 「わかりました。じゃ、汚れないようにボロ布で包んでおきましょう」


吉川 「それメッシの!」



暗転

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