能力開発

藤村 「はい、では吉川さん。能力開発テストを受けるのは初めてですか?」


吉川 「はい」


藤村 「ですよね。バカそうだもん」


吉川 「ちょっと! 全然関係性築けてないのにそんなこと言いますか、普通?」


藤村 「大変失礼しました。おバカそうですもんね」


吉川 「まったく訂正されてない。根本的に何が問題だかわかってないでしょ。おをつけて丁寧にしても帳消しにはならないよ?」


藤村 「大丈夫です。私どもはどのような方の能力も開花させてきました」


吉川 「ちなみにあなたはやったんですか?」


藤村 「私? 私はそんな危ないことしませんよ」


吉川 「危ないの? 全然そんなことパンフレットには書かれてなかったけど?」


藤村 「あわわわ。違います。あぶないと言っても、危害が及ぶようなことではなく、グラビアアイドルが露出多い時に使う意味のあぶないです」


吉川 「どういう意味!? 露出の多いあぶないって、そっちだったらいいやってならないと思うんだけど?」


藤村 「そうですか? 逆に嬉しくありません?」


吉川 「それはあなたの趣味嗜好でしょうが。一般論みたいに言うなよ」


藤村 「では吉川さん。事前のテストであなたの能力を分析しました。これに基づきまして適正のある能力をさらに飛躍させましょう」


吉川 「なにに適正があったんですか?」


藤村 「ええと……。強いて言うなら、頑固な油汚れを落とすのが得意なようですね」


吉川 「頑固な油汚れ。つまりそれは掃除とか整頓とか、清潔にするような能力ということですか?」


藤村 「いえ、掃除の能力はまったくなく、むしろ不潔な傾向にありますね。ただ頑固な油汚れを落とすことだけは適正があります」


吉川 「なにそれ。その能力を伸ばしてどう活かせばいいの?」


藤村 「活かせるかどうかは吉川さん次第ですよ。球を棒で叩く能力が高い人だってスポーツと巡り合わなければただの野蛮人ですから」


吉川 「もっともらしいことを言う! でも頑固な油汚れのみの状況ってあります?」


藤村 「油田とかに行けば……」


吉川 「油田で油汚れを落とす仕事? そんなのある?」


藤村 「あるんじゃないですかね。油まみれの石油王を見たことあります?」


吉川 「ないよ、そもそも石油王自体見たことないよ」


藤村 「ひょっとしたら石油王はその能力があるのかもしれませんね」


吉川 「ないだろ。だいたい石油王は能力でなるものじゃなく継承されるものだろ。あるとしても石油王になる能力だよ」


藤村 「そういう能力は吉川さんにはないですね。頑固な油汚れを落とす能力以外はなにもない。何一つない。すべてが人より下」


吉川 「断言するなよ。あるかもしれないだろ。しょっぱなからお前ずっと失礼だな」


藤村 「そんなに怒らないでくださいよ。吉川さんには適切に怒る能力もないんですから」


吉川 「能力とかじゃなくてしてもいいだろ。火に油を注ぐようなことを言うな」


藤村 「チャンスです! 能力を活かして!」


吉川 「これで開発してるつもりなの?」



暗転

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