ぺてんし

抜き打ち

藤村　「今から抜き打ち検査をする」

吉川　「うわぁ、まじか……」

藤村　「はい、静かに。騒がない。日頃からちゃんとやってれば問題がないはずだ」

吉川　「そりゃそうですけど」

藤村　「え～と、じゃあ。そこの吉川。代表して抜き打たれろ」

吉川　「え？　抜き打た？　なんですか？」

藤村　「いいから。早く抜き打たれろ」

吉川　「抜き打たれる意味がわからないんですが」

藤村　「こっちだって別に抜き打ちたくて抜き打ってるわけじゃないんだよ。こういうのはランダムで選ばれるんだから」

吉川　「抜き打ち検査はいいんですが、抜き打たれるってどういうことですか？」

藤村　「どういうことってどういうことだよ。抜き打ち検査知らないか？」

吉川　「知ってます。それは知ってますけど、抜き打たれろと言われて、こっちはどうすればいいんですかね？」

藤村　「どうって、日本語大丈夫か？　抜き打ちなんだから、抜いて、打たれるんだよ」

吉川　「なにを？　なにに？」

藤村　「そりゃお前、抜くって言ったら。つまりあれだろ？　あんまり詳しく言うとセクハラになるから言えないけど」

吉川　「待って！　そういうことなの？　違うでしょ。抜き打ち検査にセクシャルな要素ないでしょ」

藤村　「ないの？　じゃ、何を抜くの？」

吉川　「こっちが聞いてるんですよ。打たれるってのも文字通りだとしたら物騒過ぎる」

藤村　「それはでも滝に打たれるとか色々あるから」

吉川　「滝に？　突然打たれるの？　なんの予告もなく？」

藤村　「抜き打ちだから」

吉川　「ひょうきん懺悔室じゃないんだから。それだって嫌だよ。抜かれたり打たれたり」

藤村　「抜き打ちが嫌だったら、もう絞め殺ししかないぞ？」

吉川　「そういうことなの？　絞め殺しと同じ土俵の言葉？　怖いだけじゃん」

藤村　「誰だって嫌なんだよ。抜き打ち検査を喜ぶやつなんていないの。でもみんなそれを受け入れてるんだから」

吉川　「絞め殺しと同じトーンで受け入れてる人いないでしょ。そんな壮絶な覚悟背負う？　たかが検査で」

藤村　「他の検査と言われるともう湿りぬかるみしかないぞ」

吉川　「それも嫌だなぁ。生命の危機はなさそうだけど、湿ってぬかるむの検査で一番されたくない。語呂も悪いし」

藤村　「だろ？　抜き打ちが一番マシなんだよ。抜いて打ったらもう終わりなんだから」

吉川　「だから何を抜いて打つのか全然具体性がないから逆に怖いんだよ」

藤村　「じゃ、しょうがないな。そぎ切りだ」

吉川　「下ごしらえみたいになってきたな。一体何の検査なんですか？」

藤村　「絞め殺した鶏をそぎ切りにしてタレで湿りぬかるみ焼いたものの抜き打ち検査だ」

藤村　「照り焼き？」

暗転