三つ

藤村 「三つだ」


吉川 「なんだと?」


藤村 「三つ数える間に消えろ。さもなくばどうなるかわかってるだろうな」


吉川 「上等じゃねえか!」


藤村 「ひとつ」


吉川 「バ、バカにすんな!」


藤村 「ふたつ」


吉川 「俺は引かねえからな!」


藤村 「みっつ!」


吉川 「うわー! ハトが出てきた! ど、どういうこと?」


藤村 「タラ~ン♪」


吉川 「手品? 手品だったの? 手品の秒読みだったの?」


藤村 「今のはほんの小手調べだ」


吉川 「ここまで小手調べという言葉がピッタリな小手調べは初めて見たよ」


藤村 「こいつを見ろ」


吉川 「じゅ、銃!?」


藤村 「三つやる。三つ数えるうちに失せろ」


吉川 「クッ……」


藤村 「ひとつ」


吉川 「それがたとえ脅しじゃなかったとしても」


藤村 「ふたつ」


吉川 「俺は引かない!」


藤村 「みっつ!」


吉川 「うわー! え? 銃が消えた? どこ? どこに行ったの?」


藤村 「ポケットを確かめてみろ」


吉川 「えー? なんでぇ!? ポケットから銃が。こんなに離れてるのに。うそうそ、さっきまでなかったよ?」


藤村 「どうだ?」


吉川 「びっくりした。すごい手品だった」


藤村 「これもほんの小手調べだ」


吉川 「小手もここまで調べられたら本望だろうに」


藤村 「これが最後の警告だ。みっつ数えたあと、この美女が一体どうなるかわかってんだろうな?」


吉川 「アシスタントの美女が出てきた。あ、もう本当にただ手品をやる感じになってる」


藤村 「ひとつ」


吉川 「その不自然なスリットが入ったワンピースの美女が一体どうなるんだ!?」


藤村 「ふたつ」


吉川 「もうこうなるとワクワク感しかない」


藤村 「みっつ!」


吉川 「痛っ! え? なに? なんでビンタされたの?」


藤村 「だから失せろと言っただろ」


吉川 「ここにきてシンプルな暴力? いや、最初はそうだと思ってたけど。本当にそうだったら手品のくだりはなんだったんだ」


藤村 「ほんの小手調べだ」


吉川 「そうだろうけど。ここまで調べたらもう小手のプライバシー、ゼロだよ」


藤村 「三つやる。今度三つ数えるうちに消えなければ、この箱に入った美女が剣で串刺しになってしまうぞ」


吉川 「無茶を言うなよ。そんなこと言われて見ずに去れるわけないだろ!」


藤村 「ひとつ」


吉川 「むしろ去っちゃったらどうするつもりなんだよ。美女も刺され甲斐がないでしょうが!」


藤村 「ふたつ」


吉川 「絶対にここを動かない!」


藤村 「……」


吉川 「……」


藤村 「……」


吉川 「みっつを溜めるなよ! なにハラハラドキドキ感を演出しちゃってるんだよ!」


藤村 「みっつ!」


吉川 「うわー! なにをする! 急に布をかけて。見えない。助けて。たす、あ! 明かりが! あれ?」


藤村 「タラ~ン♪」


吉川 「えぇっ!? ここどこ? なんでこんなところに!? まさか箱から出てきたのは俺!?」


藤村 「三つ数えるうちに見事消えました!」


吉川 「イッツ・イリュージョン!」



暗転

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