ドッグ

藤村 「ステイ! ステイ!」


吉川 「あ、ワンちゃん。可愛いですねー」


藤村 「こんにちは。ハンド!」


吉川 「わー、賢い。お名前はなんて言うんですか?」


藤村 「マイ・ドックです」


吉川 「マ、マイ・ドック? 名前が?」


藤村 「あー、略称なんですよ。家族で呼んでるうちにそうなっちゃった」


吉川 「あー、ペットの名前でそういうのありますよね」


藤村 「正式にはディス・イズ・マイ・ドック」


吉川 「余計ヤバさが出てきた。え? 名前が?」


藤村 「まさか埋伏の毒の略称だと思いました? ご安心を」


吉川 「そんな方向から心配はしてないけど。変わった名前ですね」


藤村 「飼い犬に英語で指示を出すのに憧れてまして。ステイ!」


吉川 「あぁ、そうなんですね。変わった飼い方」


藤村 「ローリング。クルンと。ローリングして」


吉川 「あ、いいです。大丈夫です」


藤村 「して、ローリング! 回って!」


吉川 「あ、回った。可愛いですねー」


藤村 「英語でやってほしいのに!」


吉川 「でも結果的にできたわけですから」


藤村 「それじゃ世界で通用する犬にはなれない!」


吉川 「えぇ……。別にいいんじゃないですか? 世界でもこの可愛さは通用しますよ」


藤村 「これからのグローバルな社会についていけないと困ります! ダウン! ダウンして! 下に。ペタってダウン」


吉川 「日本語でいいんじゃないですか?」


藤村 「ダメですよ。外国の犬種だし。ダウン! もう! ドント・ライト・ハジ!」


吉川 「ドント・ライト・ハジ?」


藤村 「アイム・ハジテイト!」


吉川 「ハジテイトは躊躇するって意味だから恥じているって意味じゃないですよ」


藤村 「そうなんですか? 英語得意なんですね」


吉川 「いえ、別に普通です。では頑張ってくださいね」


藤村 「待ってください! 一つだけ!」


吉川 「なんですか?」


藤村 「チンチンって英語でなんて言うんですか?」


吉川 「え?」


藤村 「チンチンです」


吉川 「チンチンはそのぉ……」


藤村 「犬のですよ? あるじゃないですか。チンチン」


吉川 「あー、ありますね」


藤村 「あれの英語の言い方がわからなくて。もうペニスでいいですか?」


吉川 「私に答えを求められても」


藤村 「ペニスって言いますよ? 街中で。大声で」


吉川 「言わなきゃいいじゃないですか。あと日本語で言えば」


藤村 「英語で格好良く言いたいんです! そのためのマイ・ドッグなんです!」


吉川 「そのためって、最悪だな」


藤村 「教えてください。ペニスの英語を!」


吉川 「ペニスはペニスの時点で英語ですよ。あんまり言わせないで。連呼もしないで」


藤村 「なんて言えばいいんですか?」


吉川 「なんて言えばって、そもそもなんで日本語でチンチンというのかもわからないんで訳しようがないですよ」


藤村 「わからないんですか? じゃ、ペニスで押し通すしかない」


吉川 「そんな苦渋の決断で押し通さないでくださいよ。日本語で大丈夫ですって。英語じゃなくても世界に通用しますよ。これだけ可愛くて賢いんですから」


藤村 「日本語かぁ。なんかダサいしやだなぁ」


吉川 「いや、日本語の方がいいですって。慣れない英語を無理やり使ってる方が無理が生じておかしいですよ」


藤村 「そういうものですか?」


吉川 「そうです。日本語で。自信を持ってチンチンと言ってください」


藤村 「陰茎!」


吉川 「そういうことじゃないでしょ!?」



暗転

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