予約

吉川 「すみません。日曜の19時から予約したいんですけど」


藤村 「ありがとうございます。ちょうど予約されたいなーと思ってたところなんです」


吉川 「予約されたいと? あんまりそういうこと思う人っていないと思いますけど」


藤村 「うちは予約されるのが大好きで。もうなんなら予約のまま永遠に来客しないで欲しいくらい」


吉川 「それは逆に悪質じゃないですか?」


藤村 「ちなみに何名様でしょうか?」


吉川 「6名なんですけど」


藤村 「あちゃ~! 6名ですか。ちょうどその時間、7名用の席しか空いてなくてですね」


吉川 「7名用? じゃ、それでいいです」


藤村 「でも7名用ですと、全然知らない気持ち悪いおっさんと相席になっちゃいますが?」


吉川 「相席になっちゃうの? 待って。そもそも7名用ってどういう形なの?」


藤村 「ちょうど上座というか、いわゆるお誕生日席ですね。そこに全然知らない気持ち悪いおっさんが座ってしまう形になります」


吉川 「絶対嫌です。全然知らない気持ち悪いおっさんを祝う形になりたくないです」


藤村 「ですと……、6名様の席がご用意できるのはちょっと時間がズレますけど、23時半からならご用意できますね」


吉川 「遅い! ちょっとズレる感覚で4時間半後を提案する? 終電ない人もいるよ!」


藤村 「あー、そうですか。でも深い時間からゆったりと過ごすのもいいかなぁと思いまして。ラストオーダーが23時45分なんですけど」


吉川 「どこをどうゆったりとすごすんだよ。短命種の人生じゃないんだぞ」


藤村 「となりますと、19時で15名様からの宴会スペースをお取りすることもできますが?」


吉川 「あるの?」


藤村 「座敷になりますけど」


吉川 「全然いいです、座敷で」


藤村 「あ、そうですか。じゃ、おとりしますね。ちなみに9名様の宴会と相席になりますけど」


吉川 「待って! まだ取らないで。それはダメだよ。気まずいだろ、知らない宴会に6人で乗り込むの」


藤村 「大丈夫です。向こうも同じくらい気まずいと思いますから」


吉川 「なにが大丈夫なんだよ。大丈夫じゃないと大丈夫じゃないを掛け合わせても大丈夫にはならないよ!」


藤村 「でも出会いのチャンスですよ?」


吉川 「そんな形で強制的に出会わされるの罰ゲームでしかないだろ」


藤村 「でしたら全然知らない気持ち悪いおっさん9名様を詰め合わせますか?」


吉川 「なんでおたくの店は全然知らない気持ち悪いおっさんを潤沢に用意してるんだよ。どういうシステムなの?」


藤村 「やっぱり引き寄せ合う何かがあるのかも知れませんね」


吉川 「勝手にこっちのことを全然知らない気持ち悪いおっさん6名だと認識してるの? 確かに男で若くないけど、気持ち悪いおっさんじゃないよ」


藤村 「いませんか? 一人も。気持ち悪いおっさん混じってませんか?」


吉川 「厳密に精査するなよ! 気持ち悪いかどうかは主観だろ」


藤村 「でしたら相席で女性客というのも……」


吉川 「できるの、そういうの!? なに? そういうのあるなら最初から言ってよ。全然こっちは大丈夫です」


藤村 「うわ、気持ち悪ぅ」


吉川 「しまった。これか」



暗転

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