過言

吉川 「藤村~」


藤村 「確かに俺は藤村と言っても過言じゃないな」


吉川 「藤村だからな」


藤村 「過言ではない」


吉川 「過言とかじゃなくてそのものズバリ藤村だろ。藤村に対して過言な藤村ってなんだよ」


藤村 「だいたい過言はさ、違う時ばっかり指摘されてない? 過言の時ってあんまり少なくない? 『過言ではない』ばっかりだよ」


吉川 「そうかな。ネット上にはすべてが過言な人多いけど」


藤村 「お前そういう的確に人を攻撃する指摘やめろよ。過言ではないけど過剰防衛だよ」


吉川 「新しい使い方したな」


藤村 「華厳の滝は三大瀑布と言っても過言ではないな」


吉川 「過言ではないよ。華厳だよ。かわいいコックさんの絵描き歌みたいになってるけど」


藤村 「花粉は過言だと思う」


吉川 「花粉?」


藤村 「花粉症ってちょっと大げさに盛ってない?」


吉川 「いやいやいや! 花粉は過言じゃないよ! 花粉症の人間はみんな苦しんでるんだから」


藤村 「俺、花粉症じゃないからあんまりピンとこないんだよね。そこまで?」


吉川 「そこまでだよ! 過言じゃないよ! 花粉だよ!」


藤村 「ハッパじゃないよ、カエルだよ」


吉川 「ついにコックさん描き始めたな」


藤村 「でも過言はさ、否定されるばっかりで悲しいと思うよ。いっつも『じゃない』って言われる過言の気持ちになったことある?」


吉川 「ない。おそらく今のところ世界中の誰も過言の気持ちになったことはないと思う。過言を擬人化したことないから」


藤村 「過言になって考えてみるとさ、やるせないと思うよ」


吉川 「じゃあ聞くけど、やるせはいいのかよ! やるせだって毎回否定されてるんだよ? やるせある時って見たことないもん」


藤村 「俺としたことが。過言に寄り添うあまり、やるせのことに無関心だった」


吉川 「まぁ俺もやるせの気持ちに寄り添ったつもりはないけど。やるせの気持ちになった人もまだいないと思うよ。定かじゃないけど」


藤村 「はい、言質取りました! 定かを軽々しく否定するなよ! 定かの気持ちになれ!」


吉川 「いや、定かは割と言わない? そんなに否定されるばっかりじゃないよ。結構定まってる状況は多い」


藤村 「そっか。定かはみんなに認められてるのか。よかったな、定か。頑張ってきた甲斐があった。こんなろくでもない世界で必死に生きてきたのが報われたよ」


吉川 「あ~ぁ! ろくでもに対してそんなひどいこと言うんだ? ろくでもの気持ちをまったく知らないくせに!」


藤村 「なんだよ! お前ばっかり人権派に回りやがって! 俺は別にろくでもを悪く言ったつもりはないよ。ろくでもだってそれなりに評価してるよ」


吉川 「どうかな。お前の腹の底でろくでもを見下してるのが透けて見えたよ?」


藤村 「そういう指摘やめろよ。確かにあんまりろくでものことを買ってはなかったよ。どうせろくでもはないと思ってたよ。だけどお前のそのネチネチ言ってくる感じはただ事じゃないよ」


吉川 「誘ってるじゃん。今の明らかにただ事をだしに使っただろ? わざと否定しただろ。それは最低のことだぞ。ただ事に対して一番しちゃいけないことだよ」


藤村 「すまん。つっこまれるのが嬉しくて、ついついただ事のことをないがしろにしてしまった」


吉川 「がしろにも謝れよ!」


藤村 「もう勘弁して」



暗転




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