オーディション

吉川 「皆さんお忙しいところお時間をいただき誠にありがとうございました。厳正なる審査をした結果、今回のオーディションは合格者なしとさせていただきました。またいずれどこかの機会でお目にかかれることを期待しております。それでは以上になります」


藤村 「すみませーん。藤村です。遅刻してきた藤村です」


吉川 「あぁ、どうも。お疲れ様でした。オーディションは終了しました。また次回に挑戦してください」


藤村 「あれ? 違いますよ? 遅刻してきた藤村ですけど?」


吉川 「うん。ダメだよ。次は遅刻してこないでね」


藤村 「そうじゃなくて。遅刻です。遅刻」


吉川 「この業界、時間には厳しいから。気をつけたほうがいいよ」


藤村 「印象に残りたくてあえて遅刻してきたのわかってない感じ? 大丈夫ですか、そのセンスで」


吉川 「なんだよ、お前。問題外だよ、そんなやつ」


藤村 「今回オーディションということで選ばれにわざわざ来てあげたんですけど」


吉川 「あのね。選ばないよ、君みたいな人は。特に」


藤村 「からの~?」


吉川 「からのとかないよ。なんだよ、からのって! 選ばないのは選ばないよ」


藤村 「じゃ、あれ言っちゃおうかな。もう出すしかないか。ここよく見てください。ここ」


吉川 「なに?」


藤村 「ホクロ。顔みたいになってるでしょ」


吉川 「だからなんだよ! こっちは忙しいんだよ」


藤村 「えー? これ言ってもダメですか? 審美眼ってわかります?」


吉川 「わかるよ! こっちは選ぶ立場なんだから、色々とそれなりに考えてるんだよ。ただどんな審美眼を持ってる人間でも、ホクロが顔だから合格、とはならないぞ」


藤村 「でもこれムギュってつぶすと。ほら、可愛い顔」


吉川 「可愛い顔とかどうでもいいんだよ。ホクロが作り出す顔の表情で勝負してる人間、この業界にはいないんだよ」


藤村 「オンリーワンなんだよなぁ」


吉川 「ノーサンキューなんだよ。ワンもいらない! お前みたいなやつ一番いらない」


藤村 「からの~?」


吉川 「からないんだよ! 終わり。ジ・エンド。結果を受け入れろよ」


藤村 「でもいいのかな? 今回のスポンサーいるでしょ。乳飲料の」


吉川 「ま、まさか?」


藤村 「たまに飲んでるんだよね」


吉川 「消費者かよ! ただの! しかもたまにしか飲んでない。もっと飲め。せめてよく飲む消費者であれ!」


藤村 「いいのかなぁ? 俺の実力を何も見てないのにその態度。後で後悔するのは誰かな?」


吉川 「絶対にこの件に関しては後悔しない気がするけどな」


藤村 「ちなみに。うちの親は俺を生んだこと後悔してたぜ」


吉川 「そりゃそうだろ。同情するよ。痛いほどわかるよ、その気持ち」


藤村 「じゃ、一瞬でいいよ。なにか一つオーダー頂戴。絶対に一瞬であんたの心をつかんでみせるから」


吉川 「できたからと言って選ぶとは約束しないからな。じゃ、冷たくあしらった仲間が自殺したことを知った時の顔」


藤村 「ムギュッ」


吉川  「ホクロの顔で表現するなよ!」



暗転

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