台風

吉川 「現場の藤村さん、現在の台風の状況はどうでしょうか?」


藤村 「はい! こちら中継の藤村です。現在暴風域の方はものすごい風と雨で視界の方も殆ど効かなくなっている様子です」


吉川 「藤村さん、大丈夫ですか? そちら大変な状況のようですが」


藤村 「私は大丈夫です。室内にいますので」


吉川 「あ、室内にいるんですね。現場近くの?」


藤村 「いいえ。もう家に帰ってきたんで、それほど近くもないですね」


吉川 「あれ? そうなんですか?」


藤村 「台風が来そうだったんで、早上がりしました」


吉川 「あぁ……。なるほど。では暴風域の状況の方は?」


藤村 「すごい様子です!」


吉川 「うん、様子はこちらでもわかるんですけど。藤村さん自体は全然そういう状況には?」


藤村 「まったく大丈夫です。ただちょっとこちらも風の方が強くてですね」


吉川 「あ、やっぱり!? 影響の方が?」


藤村 「今エアコンを弱にしました」


吉川 「エアコンの風の話? 台風は?」


藤村 「台風はすごい様子です」


吉川 「様子はわかるんだよ。様子に関してはこっちと情報量が変わらないから。現場の状況は?」


藤村 「現場の方はちょっとわからないです。面倒くさいんで」


吉川 「面倒くさい? どういうこと?」


藤村 「さっき一瞬問い合わせようかなぁと思ったんですけど、面倒くさくなっちゃいまして」


吉川 「そこは問い合わせてよ! なんで面倒くさくなっちゃってるの?」


藤村 「やはり気圧の影響が強い模様です」


吉川 「まぁそう言いいますけど! 気圧でね気分が落ち込んだりとか、皆さんにも気をつけてほしいですけど」


藤村 「あぁっと!?」


吉川 「どうしました? 藤村さん!?」


藤村 「今ちょうどコーヒーを淹れようと思ったのですが、キッチンに行く前に面倒くさくなっちゃいました」


吉川 「知らねぇよ! なんだよそれ。今放送流れてるんだよ」


藤村 「こちら大変な状況でですね、さっき注文したウーバーイーツも2時間配達員が見つかっておりません」


吉川 「こんな時に頼んでやるなよ! 可哀想だろ」


藤村 「もし注文が届いたらどんなやつだろうとバッド評価つけてやろうかと思います」


吉川 「ひどすぎるだろ! こんな台風の中運んで、無茶なクレームつけられて、踏んだり蹴ったりだよ」


藤村 「このように各地でさまざまな人が面倒くさくなってる模様です」


吉川 「面倒くさくなってるから大変なんじゃないんだよ! それはお前だけだよ。みんな台風で大変なんだから」


藤村 「おや? いよいようちの窓の方にも風の音が大きく聞こえてきました」


吉川 「あ、大丈夫ですか?」


藤村 「わからないです。カーテン閉めてるんで」


吉川 「それは様子見ろよ! すぐだろ。そんなちょっとの動作を面倒くさがってるの?」


藤村 「全部気圧のせいだと思います」


吉川 「いや、それはお前の性根の問題だよ。なんでもかんでも気圧に背負わせるなよ」


藤村 「おおっと!?」


吉川 「どうしました? 藤村さん!?」


藤村 「今、ネットで靴を探してたらちょうどセールやってるみたいでラッキーでした」


吉川 「片手間に? 全然この中継にも集中してないわけ?」


藤村 「そんなことありません。もう私は誠心誠意で……。あ、もういいです。本当はどうでもいいと思ってました」


吉川 「言い訳すら面倒くさくなってるんじゃねーよ!」



暗転

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る