テレビ

吉川 「うわー、新しいテレビ買ったんだ」


藤村 「大画面」


吉川 「でかいなー。これ何インチ?」


藤村 「俺も詳しくは知らないんだけど、たぶん億とかかな」


吉川 「さすがに億じゃない、そんなデカくないよ。よく知らないにもほどがあるだろ」


藤村 「詳しくないから。新しいってこと以外何も知らない」


吉川 「それでよく買う決断したな」


藤村 「ほら、昔から言うじゃない。能ある鷹は爪を隠すって」


吉川 「うん、言うけど。それとテレビが何の関係が?」


藤村 「関係はないけど、俺には能があるっていうアピール」


吉川 「急にそんなアピールぶっこんだの? テレビの話題の最中に?」


藤村 「引用する言葉違ったわ。ほら、昔からさ。テレビと土偶はデカい方がいいって言うじゃない」


吉川 「言う? それ本当に昔からある言葉?」


藤村 「土偶の時代から言われてきたんじゃない?」


吉川 「土偶の時代にテレビないだろ」


藤村 「あの頃はテレビ式の土器かもしれないけど」


吉川 「なんだよテレビ式って。そんな言葉ないよ、多分」


藤村 「ないか。勘違いかな。あんまり詳しくないんだよね」


吉川 「詳しいとか詳しくないの問題じゃない気がする。これ4K?」


藤村 「いや、2DKかな」


吉川 「間取りじゃないよ? 間取りだとしても4Kはおかしいから。シェアハウスみたいになってる」


藤村 「なんか店員さんがね、これが今一番軽いですよって」


吉川 「テレビはあんまり軽さアピールされることないだろ。持ち歩くことないんだから」


藤村 「そうなの? じゃ、重い方がよかったかな」


吉川 「よくはない。なに? どういう基準でテレビ選んでるの?」


藤村 「やっぱり、見た目かな」


吉川 「まぁ見た目もあるだろうけど」


藤村 「面白い番組多くやってるやつの方がいいもんね」


吉川 「それは見た目に含まれないよ! 番組の内容までテレビに背負わせるなよ」


藤村 「え? じゃ、これつまらない番組も結構流れるってこと?」


吉川 「流れるだろうけど、それはお前次第だろ。選べばいいんだから」


藤村 「選ぶの苦手だから全部店員さんに任せたんだけど」


吉川 「見る番組まで店員さん任せ? どんな風になってるの? ちょっとつけて」


藤村 「つける?」


吉川 「テレビだよ。スイッチで。リモコンで。つけるものでしょ」


藤村 「これそういうのじゃないと思う」


吉川 「そういうのじゃないテレビなんてないんだよ! テレビはつけて、番組流して、見たり見なかったりする。それがテレビ」


藤村 「でも人間てさ、子孫を残したり社会を維持するために生まれてくるわけじゃないわけでしょ?」


吉川 「根源的な問いにスイッチしたな。そんな哲学的な気持ちでテレビに向き合ってる人いないよ。テレビは見るもんだよ」


藤村 「うん。じゃ、見よう」


吉川 「見ようって」


藤村 「ここのエッジの部分が格好いいと思うんだよね。黒くて」


吉川 「うん、お前がそれでいいんだったら、俺はもう何も言うことないよ」


藤村 「やっぱ四角いの買ってよかったー」


吉川 「よかったな」



暗転

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